晋VSつめ族

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晋VSつめ族

 輝平晋(てのひらすすむ)は彼女ができた。 つめ族と戦って助けた女子高生、節家莉亜(ふしいえれいあ)がそうだ。  幸せハラスメントを行う団体はいまだひそかに書店復興(しょてんふっこう)と幸せによるダメージをうったえている。  節家莉亜(ふしいえれいあ)(すすむ)も自分たちが二人で過ごすことにいままでの幸せをめざして一緒にいるわけじゃない。  幸せを探すでもなく、求めるでもなく、ただ次の試合に勝って節家莉亜(ふしいえれいあ)をはげますだけだ。  やりたくもない勉強をし、たいした大学生活や専門学校での生活を送って会社員になるのが(すすむ)のもうひとつの選択肢。  だった。  プロ入りをあきらめるつもりはまったくなくて、それでも今まよっている。  両立を(すすむ)は恐れているのかもしれない。  または格闘技一本だけで生きていくことに不安がある。  つめ族とのバトルでもそうだった。 ほんの人助け。  ただそれだけだった。  首相撲(くびずもう)なし、(ひじ)ありのガチ格闘で(すすむ)はつめ族を撃退(げきたい)した。  もう捕獲(ほかく)だとか懸賞金(けんしょうきん)だとか仲間からまわってきたつめ族への対応(たいおう)なんて別にどうでもよくなったのだ。  節家莉亜(ふしいえれいあ)を守ることができた。  強い者のまえに現れるといううわさだったが人間ならもしかしたら誰でもいいのかもしれない。  今後もつめ族は人間の前に現れては変装(へんそう)して攻撃しにくるかもしれない。 「どんな相手もかかってこい!」 「(すすむ)は調子乗りすぎ」  (すすむ)節家莉亜(ふしいえれいあ)夫婦漫才(めおとまんざい)はすっかり板についていた。  今ではかけがえのない恋人どうし。  つめ族の脅威(きょうい)よりも幸せハラスメントへの認知(にんち)を広げようとする圧力(あつりょく)も大人しくなったとはいえまだまだ続く。 「そもそもさ、誰かと過ごすとか好きな本を読むとか身体を動かすとか。 改善点がたくさんあって誰も幸せのために生きていないはずなんだよなあ。 俺が格闘技やってるのも幸せのためといえばそうかもしれないけど、シンプルに相手に勝ちたいからさ」  (すすむ)節家莉亜(ふしいえれいあ)がイラスト練習をしていたので少しだけ相手にしてもらおうと幸せハラスメントについて言葉にしていた。 「でも幸せをどうこうSNSで聞いてもいないのに金稼ぎのために聞かれるのはぶっちゃけうざい。 そうじゃない意見もあるからこそ話し合いもできるしけんかになるともいえるけど」  私さと節家莉亜(ふしいえれいあ)が前置きをして悩みを(すすむ)に打ち明けた。 「”ほしふるよるに“って言葉がまったく星と関係のない人だかりのなかでときはなたれて、何度も言葉がおそってくる夢を見てた。 最初は意味不明な夢だったけどだんだん悪夢に変わっていった。 私が考えるにこの”ほしふるよるに“って言葉は今、幸せだと思い込んでいる経験を大切にするためにふりかかる火の粉を星を守るために生きていくって意味なんじゃないかって。 意味が分からないしじれったいけど」  二人はかかえていたことを話しあって笑いあった。  みんな一度は真剣に考えるのかもしれない。  そして悩むのかもしれない。  二人は恋愛レアリティショーみたいなはなやかなデートはしなかったけど、スケジュールが空いていたので都内の遊園地で遊んだ。  最初はひとりみも覚悟していたのに今では充実したカップルだ。  格闘技の試合をひかえた男子高校生が送る平和なデート。  夜になり、二人は最寄り駅へむかおうとするとひとりのピエロが二人の後を追いかけていた。  これは変だ。  二人はすぐにピエロの正体をさっした。 「つめ族か。 バレバレなんだからその変装(へんそう)をとけ!」  ピエロはのっていたボールからおりて例のつめ族の姿へと変える。 「コノマエノツヅキダ!」  (すすむ)軽装(けいそう)になりほほをたたく。 「上等だ! かかってこいよ!」  自分たちにまたつめ族が(きば)をむくことは分かっていた。  彼女をまもるために(すすむ)はつめ族へテイクダウンした。  思ったよりもふっとんだつめ族。 それでもつめ族はナイフのようなツメで(すすむ)をねらう。  あんなツメで切り()かればひとたまりもない!  (すすむ)はつめ族の攻撃を目でよけて、アッパーをつめ族へくりだす。  ローキックをつめ族の足へきかせ、プロレス技まで使いつめ族の体力をけずる。  ナイフのようなツメが当たれば確実に傷がのこる。  それでもつめ族は戦闘能力(せんとうのうりょく)がすぐれているわけでもなかった。  (すすむ)がつめ族の予想よりも強さでうわまわっていたようだ。  節家莉亜(ふしいえれいあ)はイラストで星がふる景色を書いていたのか(すすむ)に見せていた。  星、軌道(きどう)、動き・・・  そうか!  そんな発想(はっそう)はなかった。  (すすむ)はつめ族の肩に()りをいれてそのいきおいで空をとび、流れ星がおちるように身体をねじってつめ族の頭へと我流(がりゅう)キックを決める。 「星流一鉄(せいりゅういってつ)!」  われながらはずかしかったがやっとあみだしたわざだ。  言わない手はない!  (すすむ)節家莉亜(ふしいえれいあ)と考えたわざでつめ族を弱らせた。 「コ、コンナコトガ…」 「お前たちのことは秘密にする。 これ以上攻撃もしない。 だからもう現れるな」  もうつめ族から戦意(せんい)は感じなかった。  青と黒の空間に無数のつめ族の影がみえ、戦った相手はその奥の空間へと去っていった。  こうして静かなる異種族との戦いはまくをとじた。  写真は節家莉亜(ふしいえれいあ)がとっていたが、(すすむ)が仲間内にそれらの秘密をもらすことはない。 「帰ろう」 「うん」  ドラマチックなシチュになってしまったけどそれとは別の理由で二人は手をつないで高校生としての恋愛を送っていく。
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