同窓会

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同窓会

「今日は集まってくれてありがとう。」 「いや、お前んちじゃねぇーし。」 「だな。でも紀彦(のりひこ)が、礼から入るとは俺達も歳をとったもんだな。まったく嫌だ嫌だ。」 六畳一間に、懐かしい笑い声が優しく響いた。 時は少し遡る。 7月20日海の日、20歳に行われた同窓会からおよそ15年ぶりの開催だった。同窓会として再び集められた【南陽(なんよう)小学校】卒業生、今回は【第75期 南陽小学校卒業生 交流会】と銘打っての開催だった。 立花 紀彦(たちばな のりひこ)勝沼 幸治(かつぬま こうじ)斉藤 祐希(さいとう ゆうき)、も35歳となり当時の思い出話に花を咲かせる。とは言っても卒業から既に23年程の月日が流れているといろいろと曖昧で当てにならない。 ああでもないこうでもない、と始まってしまう。 でも、そういった蜃気楼の様にぼんやりとした存在を思い出というのだろうと日本酒をクイッと流し込んで思いふける。 「宴もたけなわですが……」幹事のそんな声が聞こえると盛り上がった男三人は、「飲み直すか?」、「イイネ。」、「それな。」と童心に還ったようにニシシと笑う。はたから見たら悪巧みでもしているように見えたかもしれない。 二次会は、祐希の行き付けの小洒落たバーへ向かった。 ほんのり薄暗く、有名な洋楽が流れていてなんとも大人な雰囲気を醸し出していて改めて、大人になったな、と実感する。 「祐希がこんかオシャレな店知ってるとはな。」 紀彦は関心と皮肉を交えて言った。 「結婚して子供まで居ると、こうした隠れ家が必要になんだよ。」 祐希に子供が…、またしても時の経過に驚かされる。 「幸治は、なんか最近変わった事はあったか?」 つまみのピーナッツを口に投げ込み紀彦が聞いた。 幸治は、なんとも気まずそうな表情で「いや〜」とグラスに入った氷を指でかき混ぜる。 「なんだよー。」「気になるじゃんよー」紀彦も祐希も悪ノリで幸治の脇腹を突く。幸治のメタボ気味の脇腹がプニプニと柔らかそうに跳ねた。 幸治はかき混ぜていた指をグラスから離して、ひとなめして言った。 「いや〜。仕事辞めちゃいました!」 「マジかー。」「いや、そっちかー。」明るく話す幸治、同様に二人はあくまで軽いノリで答えた。 「なんだよ、幸治も実は結婚してました。とか言い出すのかと思った。」紀彦が悲しそうに言った。 「安心してくれ、紀彦。俺は、しずかちゃんと結婚すると決めてるからな。」 「ははっ。しずかちゃんってあの某アニメのヒロインじゃねぇーか。」 「そうさ。俺の初恋はブラウン管越しだったからね。」 「そういや、幸治、小学生の頃からそれ言ってるよな。」 「まぁ、初恋だからな。」 胸を張って腕組む幸治は、どう見ても劇場版大人ジャイアンにしか見えなかった。 彼らは懐かしむ。 今から23年前を。まだ青春というには早すぎる、しかし個としての自覚が芽生え始めたあの日々を。 思い出話は尽きることが無かった。次から次へと思い出は連鎖的にエピソードと紐つけられていく。 そしてその記憶のほとんどは共通していつもこの三人が居る。 もう共に過ごした時間よりも離れ、大人になった時間の方がずっと長いハズなのに、会えば当時と同じような気持ちになれる。これまでの時間は一時停止、再生ボタンを押せば変わらない新鮮さで時は流れ出す。 紀彦は、この二人と友達で良かったと心底思った。 「何ニヤけんだよ。紀彦、酒。無くなってんぞ。」 と祐希が。 「もっと恋バナしようよ〜。」と幸治が。 「ああ、マスター。同じのもう一つ。おっさんの恋バナとか勘弁してくれよ。」と紀彦が。 今度から、最高の酒のつまみは?と聞かれたら『思い出』などと小っ恥ずかしい事を言ってしまいそうな程には盛り上がり、楽しい時間は過ぎていった。 「あっ!」 幸治が唐突に何かを思い出した。 「おいおい、幸治。話はこれからだろぉ。」祐希はからむように言った。 ちょうど、話題が仕事の話になったタイミングだった。たぶん、仕事を辞めた幸治にとってはあまり触れて欲しく無い話題だったんだろうと紀彦は思った。 しかし、幸治の反応は少し違った。 「いやいや、違うんだって。仕事は俺が辞めたくて辞めたんだから、別に後悔や後ろめたさなんて無いよ。そんか事よりさ。」 「なんだよ。」「そんな事って…。」二人の注目が幸治へ向けられる。 「いやね。今日の同窓会の時にさ、安藤から言われたんだけどさ。」 「安藤って、安藤美香の事か?」と紀彦が念の為確認する。 「そうそう。六年の時、クラス委員長だった安藤。懐かしいだろ?」 紀彦も同窓会で、少し話た事を思い出していた。たしか、挨拶程度の軽い内容だった気がする。 「で、その安藤がどうしたんだよ?」と祐希が言った。 たしかに、酒の入った状態で話が脱線すればなかなか元の線路に戻るのは難しいと相場は決まっている。 幸治は、コホンと一つ咳払いをした。 「あのな。安藤に会った時にさ、言われたんだよ。」 「『織田君たちは元気?』って。」
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