2人が本棚に入れています
本棚に追加
靄という言葉は聞き覚えがある。想像していたものは、もっと恐ろしい雰囲気のものだったが、ああいう神秘的な靄もあるのか。
「ええ。木々に積もった雪が蒸発しているのですね。雲の赤子のようなものです。おや、風花ですね」
私はまた知らない言葉を出され、少し頬を膨らませた。それを見た彼は目をさらに細めた。
「風花というのは、晴天に舞う雪のことですよ」
彼はゆっくりと指をさしながら「モヤ、カザハナ」と私に言葉を教えた。書生君は私を何歳だと思っているのだろう。
子供扱いされて少し悔しくなった私は、庭の隅に一箇所、雪がこんもりと小さな山を作っている場所を指した。
「それじゃあさあ、あの花の名前はなんっていうの?」
「あの花と申しますと?」
「あの菰の下にある花。春になったら、毎年ここの庭で一番に咲く花の名前だよ」
菰と聞いて、彼は腰を浮かせて小さな雪の山に近づいた。
「春一番に、ですか。ということは、わたくしが初めてここに来た頃には、花は落ちていたかもしれませんね」
今朝から誰も足を踏み入れていない庭の雪は少し深かった。彼のくるぶしよりも少し深いだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!