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そんな新雪で革靴が濡れてしまうのを気にせず、彼は菰に積もった雪をそっと手で拭い落とした。
「ああ、確かに菰がありますね。ううむ。しかし、中の木は全く見えません。何の木が植えられているのか尋ねても、お嬢様は名を知らぬのですね」
彼はわざとらしく腕を組んで、片方の手で顎をさすりながら何やら考えつつ、再び縁側に腰を下ろした。そして靴を脱ぎ、中に入った雪を掻きだすと、何食わぬ顔で再びその靴を履いた。
「あの木の葉は、どのような形でしたか?」
私の方を見た彼の顔が、思ったよりも近くて私は思わずおしりをずらして距離を取った。顔の温度が上がったのが、書生君にバレていないだろうか。私は両手をおしりの後ろの方について、身体を後ろに倒した。
「私が見た時は、葉っぱなんて残ってなかったよ」
「枝ぶりは? 下の方で幾つかに分かれておりましたか?」
「そうでもなかったんじゃないかな。普通だよ、普通」
私の心には、少しずつ苛立ちが募っていった。こっちはどうせ花の名前なんて分からないだろうと、ただの嫌がらせで聞いてみただけなのに、この古風な書生君は真剣に考えている。
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