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きっと古風すぎて、今どきの女子中学生が考えていることなんて分かりっこないのだ。
「ああ、もういいよ! こっちが聞いたのに、質問ばっかりするんだから」
私はそう言って頬を膨らませて、彼をにらみつけた。
「そうは申されても、今は全く姿が見えませんからね。少しでも手がかりがないかと」
真面目もここまで行くとかわいそうだ。私はため息をついて、妥協案を出した。
「分かった。それじゃあさ、花の名前、付けてよ。書生君があの花の名前を考えて」
「わたくしが花の名を、ですか?」
「この庭以外で咲いているの見たことない花だもん。もしかしたら。あの場所にだけ咲く花なのかも。だから、書生君が名前付けても大丈夫だって」
なんともいい加減な理屈だと我ながら思った。だが、適当な私とは対照的に、彼は今日一番真剣な顔で、目を閉じるギリギリまで細めて菰を見つめた。
そして、菰を見つめる目を優しくして、そのまま視線を動かさずに口を開いた。
「では、『咲』と書いて『えみ』と呼ぶことにしましょう」
「咲って。そ、それじゃあ、私の名前と同じじゃない」
私がそう言うと、彼は私を見てほほ笑んだ。
「わたくしは、お嬢様のことは、お嬢様としか呼べませんから。だから、あの春一番にこの庭に咲く花の名は、咲にします」
私は、その時初めて彼の口から自分の名を聞いた。
了
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