春一番に咲く花の名を

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春一番に咲く花の名を

 私の家は、いわゆる旧家だ。今でも蔵が三つある。おそらく私が通う中学校の校区の中で、私の家以上に立派な家はないだろう。  立派なうえに、古風だ。家も、そこに住む者も。一人娘である私を除いて。  私はこの古い家の中にいて、唯一今を生きる娘だと実感していた。  学校から帰れば食事と入浴を素早く済ませ、ベッドの中でスマホを手放さず、タブレットで動画を見る。そういう生活を送っていた。  私は今どきの娘だ。ほかのクラスメイトと何も変わる所はない。心からそう思っていた。  だが、世間は、クラスメイトたちはそう見てくれなかった。クラスメイトの親たちも、教職員でさえも。  変わり始めたのは、祖父が県政から国政に仕事場を変えた頃、私の年でいえば中学入学直後くらいからだろうか。  最初は何気ないひと言から始まった。いいや、始まりはもっと前からあったのだろう。私はそれと気付かぬふりをしていた。 「お嬢様は良いよな」  分かっている。その言葉が、そのままの羨望の意味でなかったことくらい。 「良いでしょう?」  それでも私はおどけて言い返して見せた。何度も、何度も。言葉だけの「嫌味」には、気付かぬふりをしていた。小学生の間は、それで済まされていた。
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