Yui’s birthday

25/53
前へ
/373ページ
次へ
「ただいま、、」   ドアを開けると、微かにツン、と油絵の具の匂いが鼻をつく。 さっきまでは感じなかった匂い。 もしかして。 玄関近く、少し開いている部屋のドアから中をそっと覗った。 「唯、くん?」 「あ、きぃお帰り。荷物、大丈夫だった?」 イーゼルに立て掛けたキャンバスの前で、顔だけこっちに向ける。 服はそのまま、長めの髪を後ろで纏め、膝まで隠れるくらいのデニム素材のエプロンをつけている。 絵画の実習は別クラスだから、絵を描く唯くんの姿は新鮮で眩しく、尊い。 「うん、スーパーでbakuさんに会って。 そこまで運んでもらったの。 唯くんのその絵は、、篠田教授の自由課題のやつ?」 少し見えたその絵は、いかにもそれっぽかった。 「そう、あともう少しだから仕上げだけやっちゃおうと思って」 「へえ、、見てもいい?」 自由課題は、出しても出さなくてもいいやつ。そんなのやるなんて、偉すぎる。 「もちろん、どうぞ。こっちおいで」 そこを作業部屋にしてるみたいだ。 イーゼル以外にも、いろんな画材が所狭しと置かれている。凄い、本格的。 あ、でもそうだ。 「ありがとう。先に、買って来た冷蔵品を冷蔵庫に入れさせてもらってもいいかな」 「あーうん、どうぞ。ごめん、俺手が汚れてて手伝えないけど、勝手に入れちゃって」 「はあい、じゃあ入れてから戻ってくるね」 買って来た荷物を持って、キッチンへ向かった。
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

544人が本棚に入れています
本棚に追加