Yui’s birthday

27/53
前へ
/373ページ
次へ
ひととおり冷蔵庫にしまい終え、先刻の部屋へ戻った。 「買い物サンキューな。 行ってもらってる間に後ちょっとだから、って手つけちゃって。でももう、終わるよ」 「わあ……!唯くんの作品て、やっぱり繊細だよねえ」 それは、静物画の自由課題で。 花瓶や果物をいくつかテーブルに並べてモチーフにする。 唯くんのそれは、ワインの瓶と葡萄、林檎が盛られている籠だった。 技巧が匠の域というか。物凄く、時間かかってそう。 「こんな細かい描写、私には到底無理。唯くんて陶芸も、そんな感じだもんね」 私からの賛辞に、満更でもなさそうにうーん、と唸ったあと。 「でもこういうの、篠田教授の好みじゃないんだろうね」 謙遜して、そんなことを言う。 「唯くんらしくて私は大好きだよ!」 ついムキになって強めの口調で言ってしまった。 ちょっと驚いた目で見られて、恥ずかしさから「あの、篠田教授はね、ピンク使うの好みなんだよねえ」と誤魔化す。 「ピンク?」 「あー、うん。光とか、逆に影にもね。 ピンク入れると、途端に篠田教授っぽくなるんだよね。この間の個展も、そんな感じの絵ばっかりだったもんね」 あ、なんか嫌な言い方になっちゃった。 「───それ、みんな知ってる話?」 「いや、敢えて誰も言ってはいないけど、みんな気付いていると思うよ」
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

539人が本棚に入れています
本棚に追加