Yui’s birthday

37/53
前へ
/373ページ
次へ
「うん、だから」 カウンター越しに、ぐいっと後頭部を引き寄せられた。 お互いに少し前のめりになりながら、唯くんの柔らかい唇が、ぽかんとした私の唇を包む。 ───あったかい。 お吸い物の、だしの味と程よい塩加減さが、舌を通じて味覚をほんのりと刺激する。 唯くんにされるまま、私はその丁寧で巧みな口付けを、唯くんが終わらせるまで受け入れていた。 頭がぼうっとした頃、ゆっくり、しっとりと唇が数センチ離れる。 至近距離を保ったままの口から、美味しかったでしょ?と言われるかと思ったのに。 「きぃ、俺とのキスにだいぶ慣れたね」 予想の上をいく唯くんの言葉に、思わず口を押さえる。 やっぱり、全然慣れないよおお……!! アハハ、と快活な笑いを残し、テレビ画面の前に戻りながらインカムをオンにする唯くん。 「おーーbaku、ずっと放置わりい。 きぃとキスしてたら止まんなくなっちまって。やっぱきぃの猫舌最高な」 チラッと一瞬、悪戯っぽく私を振り返る。 それは明らかなのんへの挑発で。 そして恐らくそれをわかった上での、のんからの、今度は着信音がけたたましく鳴り響いた。
/373ページ

最初のコメントを投稿しよう!

641人が本棚に入れています
本棚に追加