11話 ※入り乱れる想い

1/1
前へ
/18ページ
次へ

11話 ※入り乱れる想い

「ねえ、ホセ、今夜もいいかしら?」  恥じらいながら流し目を送るのは、ネグリジェを来たオリビアだ。  護衛の振りをしているホセは、声がかかったことを喜び、内心を顔に出さずスマートに応えた。 「もちろんです、お嬢さま。さあ、参りましょう」  ふたりはオリビアの寝室へと足を向ける。  これから寝台の上で、オリビアが満足するまで、ホセが奉仕をするのだ。  基本的には唇と舌と指で。  オリビアの感じるところを責める。  何度か達せば、だいたいは気を失うようにオリビアは眠りについた。  しかし、今夜みたいに、気分が高揚しているときは違う。 「……後ろに、入れてくれる?」  すっかり開発された後孔を、オリビアはホセの眼前に突き出した。  これから始まる快楽を期待してヒクつく窄まりは、公爵令嬢といっても普通の女と変わらない。  ぷりっとした色白の尻肉を撫で、ホセは舌なめずりをする。   「いいですとも。たっぷり可愛がって差し上げます」  夜は長い。  ふたりは日をまたいで、誰にも邪魔されず、愉悦の海に溺れる。  このおかげでオリビアは、勉強に集中できているのだ。 (これは悪いことじゃないわ。だって快感に素直なのは、いい女の証拠だって、レグロさまも仰っていたもの)  オリビアが可憐な嬌声をあげる。  それに興奮したホセが、挿抜を速めた。 (女性器はつかっていない。だから……これは浮気じゃないのよ)  快楽で頭が真っ白になるまで、オリビアはホセに穴を貫かれ、ビクビクと激しく全身を痙攣させた。  ◇◆◇◆ 「ノエミさま、誠心誠意お仕えさせていただきます」 「どうか改めて、よろしくお願いいたします」  侍女たちに頭を下げられて、ノエミは戸惑う。  アマンドから、不手際のあった侍女をどうしたいか、と問われ、誰しもミスはあるから許してあげて、と軽く答えた覚えはある。  しかし、ぼろぼろと泣きながら感謝されるほどのことは、ノエミはしていない。   「いいのよ。こちらこそ、いつも良くしてくれてありがとう」  ドレスの着脱も、髪の結い直しも、ノエミがひとりでするより、うんと早くてキレイで助かっている。  それに、ノエミが知らなかった化粧も、侍女たちは教えてくれた。   「何があったかは知らないけれど、これからもよろしくね」  ノエミの寛大な態度に、侍女たちは感激する。  これ以上ノエミを怖がらせたくないアマンドから、厳しい箝口令を敷かれているので、起きた出来事を明らかにするのは許されない。  使用済みのノエミの服をレグロが持ち去った件は、侍女たちの胸の奥深くに封じられた。  そうして罪悪感を抱えた侍女たちは、より一層、ノエミに忠誠を尽くすのだった。    ◇◆◇◆ 「アマンド、次の発表内容はこれでどうかしら?」 「それが最も、妥当な落としどころだろうね」  ふたりが練ったのは、フォルミーカ国がソートレル国の領土を賃借する案だ。  わざわざ戦争で奪わなくてもお金さえ払えば、不況なソートレル国はよろこんで貸し出すだろう。   「ソートレル国にとっては、外貨が得られる手段になるし、受け入れやすい提案だと思うのよ」 「反対にフォルミーカ国にとっては、戦争にかかる軍事費をそのまま借料にしてしまえばいいし、悪くはないと思うんだけどね」  国の在り方は損得だけではない。  面子だったり誇りだったり、ノエミやアマンドにはまだ分からない部分で、成り立っていることもある。  だが、そこを推測できるほど、ふたりは両国との関係性に長けていない。 「これが私たちの精一杯よね」 「今はまだ、ね」 「外交を重ねて、親交を深めていけば、きっと両国の考えをもっと、理解できると思うわ」 「それは僕たちの将来の課題だね」  するりと出たアマンドの言葉だったが、それはノエミと共に、国王や王妃として国を導くという気概に満ちていた。  ノエミは時おり、こうしたアマンドの凛々しい態度に、心臓をぎゅうと鷲掴みにされる。 (ううう、カッコいいわ! どうしてこんなに、カッコよく育ってしまったの!)  第一印象は、おどおどしていて、イケてなかった。  だけど覗き込んだアマンドの顔は、一級品だった。  これは磨けば光るのでは? とノエミが思った通り、アマンドは徐々に輝き出す。  この三年間で、丸まっていた肩と背筋が伸びて姿勢が良くなり、臆する言動が消えて振る舞いが王子らしくなった。  その煌めきは最早、レグロを凌ぐ勢いなのだ。 (私と同じ、陰の者だと思っていたのが、今は昔ね……)    ノエミは己が蝶になった自覚がない。  並び立つと、長身のノエミとアマンドはお似合いなのだが、それに本人が気がついていない。   (こんな素敵なアマンドの隣に、私がいてもいいのかしら? もっとオリビアのように、キラキラ属性の女性が相応しいのでは?)  そんな悩みに、どんよりする日もあった。  しかし、国王の御前で決められた婚約は、簡単には覆らない。 (悩むだけ損だわ。こうなったら、私が自ら、発光するしかないのよ!)  切り替えや吹っ切りの早さはノエミの長所だ。  ノエミは負けず嫌いゆえに、たくましく生き延びてきた、これまでの虐げられ人生を思い出す。   (私はやればできる子なんだから! 光るくらい何よ!)  持ち前のポジティブさで、侍女に化粧を習い、外面には磨きをかけた。  シンプルな顔つきほど、化粧をしたら変わるのだ。  ノエミもアマンドも、お互いがお互いに相応しくあろうと、努力しているのを知らない。  正しくそれを見抜いているのは、長らく教官を務めるクレメンテくらいだろう。  しかし、大人なクレメンテは余計な口を挟まない。  ゆえに、この婚約者たちは、今しばらく両片思いの状態が続くのだった。  ◇◆◇◆ 「あっ、んぁ……あ、ひ!」 「黙れ、ノエミに似ていない声は聞きたくない」 「……っ、ぅ……ん」 「そうだ、それでいい。絶対に後ろを振り向くなよ。お前がノエミに似ているのは、髪色と体つきだけなんだからな」    レグロはそう言い放つと、ふたたび腰を打ちつけ始めた。  うつぶせに寝かされた侍女は、覆いかぶさるレグロによって、さきほどから執拗に犯されている。  仕事中、レグロに声をかけられ、閨に誘われたときは、舞い上がるほど嬉しかった。  王子に見初められるなんて、恋物語のようだと、身ぎれいにしてこの部屋を訪れたのに。  寝台に引きずり込まれるなり、声を上げるな、顔を見せるな、と怖い顔のレグロに命令された。  そして訳も分からぬ内に処女を奪われ、別の女の名前を呼びながら抱かれている。 「ああ、ノエミ、ノエミ……お前も僕のものにしてやる。兄上にはもったいない……僕の子を孕めノエミ、中に出すぞ!」  紫色の髪をした侍女は、流れる涙をシーツに吸わせた。  自分の体が、誰の身代わりにされているのか、もう理解している。   (レグロ殿下は、アマンド殿下の婚約者の、ノエミさまをお慕いしているのだわ)  そんなことを知ったところで、侍女にはどうする術もない。  レグロが満足するまで、ひたすら声を殺して、苦行に耐えるしかなかった。 「髪は切らずに、そのまま長く伸ばせ。ノエミに姿かたちを似せる努力をしろ」  理不尽な指示を突きつけられ、いくばくかの金貨を渡されると、夜更けに侍女は解放された。  侍女はレグロからの要求を思い出す。 (オリビアさまが城に来た日以外は、必ずお相手をするようにって……こんなのがこれから、毎夜続くっていうの?)    侍女は浅はかだった自分を悔いた。  オリビアという婚約者がいながら、侍女に手を出そうとするレグロに、ときめいた過去が恨めしい。  しかし、身分的にもレグロには逆らえない。  奥歯を噛みしめ感情を殺し、それからも侍女はノエミの代役として、夜ごとレグロの慰み者になった。  ◇◆◇◆ 「次の発表の解答、こんなんでどうだ?」  イサークが持ってきた書面に、レグロはさっと目を通す。 「ふむ……ソートレル国には高利で金を貸し、傭兵を斡旋。フォルミーカ国には型落ちした余剰の兵器を売りつけ、なるべく戦争を長引かせる、か。ずいぶんと悪どいな」 「そんで、両国がすっかり疲弊した頃、まとめて我が国の属国にするんだよ」  俺って天才だろう? とイサークは自信満々だ。  レグロは外交で訪れた、両国の避暑地や景勝地を思い浮かべる。 (あれが、僕のものになるのか。……悪くない)  オリビアといろんな体位を試した場所に、今度はノエミを同伴させよう。  にやりと口角を持ち上げ、レグロは頷いた。 「よし、これで行こう。質疑応答にも困らないよう、しっかりと対策をしてくれ」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

116人が本棚に入れています
本棚に追加