12話 ※双子の王子の違い

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12話 ※双子の王子の違い

「これは……分かれましたな」 「見事に真逆です」 「しかし、レグロ殿下は追い上げてきてますね」 「確かに。前回よりは、良くまとまっている」  二度目の発表の場が終わり、集まった審査官たちは口々に感想を述べる。  ノエミとアマンドの見解と、レグロとオリビアの見解は、真っ向から対立していた。 「アマンド殿下とノエミ嬢は、開戦を待たずして介入し、両国の利になる妥協点を探ろうとしている」 「反してレグロ殿下とオリビア嬢は、戦争で金を儲け、さらに漁夫の利で、両国の属国化を狙おうとしている」  ソートレル国とフォルミーカ国が、ピリピリしているのは事実だった。  そしてそれに対して、サンターナ王国がどう動くのか、国の上層部でも意見が割れていた。   「殿下たちの見解の違いは、まさしく政治の縮図そのもの」 「このたびの試験は、よい試金石となりましたね」 「さすがは国王陛下の第一の側近であられる」  クレメンテ以外の審査官たちが、側近のブラスを褒めた。  なにしろ王太子を選定する試験を整えたのはブラスだ。  三年前は、今ほど両国間の問題は、焦点をあてられていなかった。  それを見越した先見の明に、改めて感心したのだ。 「伏せていましたが、両国を題材にしたのは、国王陛下なのです。私はその案の、手伝いをしたにすぎません」 「おお、なんと陛下が?」  にわかに審査官たちがざわめき出す。   「国王陛下は、双子の王子殿下のどちらに国を任せるのか、この試験の結果に委ねると仰っています。私たちの責任は重大であると、認識してください」  ブラスの一言に、審査官たちは水を打ったように静まりかえる。  だが悩まし気な顔つきをしているところを見ると、現時点では決めかねているのだろう。 「前回までの成績でしたら、間違いなくアマンド殿下を推しました」 「だが、今回のレグロ殿下の発表は、なかなかの政治力が垣間見えた」 「どちらも王太子として、十分な素質を持っていると思うが……」  最終的にはどちらか一人しか、王太子には選ばれない。  和平を望むアマンドか、利得を狙うレグロか。  ソートレル国とフォルミーカ国から、サンターナ王国が手に入れるのは、恩か、国土か。   「四か月後、最後の発表が待たれますね」  ブラスの零した呟きは、審査官すべての胸中を代弁していた。  ◇◆◇◆ 「オリビア、尻が腫れている。大丈夫なのか?」  昨夜もホセとの熱い夜を過ごし、打擲されたオリビアの桃尻は、うっすらと赤みを帯びていた。  ドレスを脱がしながら、それを目ざとく見つけたレグロは、何事かと心配する。 「……きっと勉強のしすぎですわ。ずっと椅子に座っていると、そうなるんです」 「そうか、そんなにまでして、学んでくれているのだな」  レグロはオリビアの尻たぶに、ちゅうとキスをする。 「可愛いオリビア、今日も夜まで契ろう」 「はい、レグロさま。私も、お会いできるのを、楽しみにしていたんです」  ゆっくりと舌を絡め合い、全裸のふたりは寝台へ横たわる。  同じこの寝台で、昨夜レグロは、侍女に盛大な潮を噴かせた。  ノエミに似ていない平凡顔は、見たくないから枕を押しつけて隠した。  そしてイッている最中に正常位でガンガン突いたら、透明な愛液をぶしゅっと撒き散らしたのだ。  粗相をしたと慌てふためく侍女の姿を、ノエミに重ね見てレグロは興奮した。 (あの侍女、連日抱けば飽きるかと思ったが、そうでもない。オリビアの体は、たまに食べるから味わい深いが、立て続けだとまた、食傷気味になりそうだというのに)  レグロは己の不可解な感情を分析する。 (きっと、まだ本物のノエミが、僕のものになっていないせいだ。それで僕はなかなか満足できずに、あの代替品にいつまでも固執するのだろう。ああ、早く抱いてみたい、美しくなったノエミを)  人のものほど、よく見えるという。  いまだ手を伸ばすことが叶わないノエミを想い、下半身を滾らせたレグロは、それをオリビアの股座に擦りつける。 (そう言えば、容姿が似ていないから忘れていたが、オリビアとノエミは異母姉妹なんだよな。……半分は血が繋がっているわけだ)  ざわざわとレグロの胸が、歓喜で騒ぎだす。 (つまりオリビアの半分はノエミと同じ。僕は今、ノエミの半分を抱いていると言っても、過言ではない)  そう思うと、居ても立ってもいられなくなり、レグロは乱暴にオリビアの片脚を抱え上げると、キラキラと輝いている秘壺へ肉棒を突き立てた。 「ああ、んっ!」  唐突な挿入に、オリビアがたまらず大きな声を漏らす。  それに興奮したレグロは、腰を振りたくる。 (似ている……どことなくオリビアの声は、ノエミに似ているぞ)  これまでは密やかだったので気づかなかったが、オリビアの嬌声には、ノエミを想起させる何かがあった。  毎夜、侍女の押し殺した声を聞いては、これじゃないと苦々しく思っていたレグロだ。  無意識の内に、常にノエミと似ている部分を、探しているのだろう。  そうと分かると、レグロは更に荒々しく抜き差し、わざとオリビアに嬌声を上げさせた。 「もっとだ、オリビア! 大きな声で啼け!」 「は、あん……れぐ、ろさま、一体どう……した、んぅ! あ、ああっ!」    しゃべっているときは似ていない。  喘ぎを上げる一瞬の、鼻にかかる声が似ているのだ。   (盲点だった。異母姉妹は、声が似るのか)  嬉しい発見に昂ぶり、レグロは夢中でオリビアを貪る。  いつもよりも激しく求められ、相手をしているオリビアも燃えた。  だが――。 (ああ、物足りない。前だけじゃなく、後ろにも欲しい。どうしてしまったのかしら、私……レグロさまを愛しているのに。今すぐ、ホセに貫かれたくて、切ない……)  一目惚れからの両想いで結ばれた婚約者たちは、体を深く繋げながらも気持ちはすれ違っていく。  レグロはノエミに、オリビアはホセに思いを馳せながら、ともに頂点を極めた。  無益なことをしていると、どちらも気がついていない。  そしてマリーン公爵家からの迎えが来るまで、レグロとオリビアは不毛な快楽を求め合ったのだった。  ◇◆◇◆ 「最近、困っていることはない?」  勉強の合間、アマンドがノエミを気遣う。  いつかはレグロのせいで、怖い思いをさせてしまった。  それ以降ノエミの周囲は、見えない部分で、二重の警備が敷かれている。 「おかげさまで、快適に過ごしているわ。でも、私がこうして試験勉強の名のもとに、王城に滞在していられるのも、残り数か月ね……」    あっという間の三年間だった。  寂しそうに呟くノエミの手を、アマンドはそっと握る。 「僕たちが勝ったら、王城がノエミの家だよ」 「ふふっ、大きな家ね。私たちは婚約者だから、これからもずっと一緒なんだけど、マリーン公爵家と王城ではまったく居心地のよさが違うのよね」 「ノエミ……マリーン公爵家では、どんな暮らしをしていたの? 今の公爵夫人は、継母なんだよね?」  今までも、ノエミの置かれた境遇は、うっすらと推し量ることができた。  だが、はっきり聞いていいのか分からず、これまでアマンドは黙っていたのだろう。  慎重な態度に、それがうかがえた。   「私のお母さまと父は、政略結婚だったの。愛のないふたりの間に生まれた私は、お母さまの死後、いらない子として扱われたわ。そして代わりにやってきたのが、長らく父の愛人だったパメラ夫人と異母妹のオリビアよ」  ふう、とノエミは息をつく。   「それからは屋敷内に私の居場所がなくなって、裏庭にある小屋で15歳まで過ごしたの。公爵令嬢らしい教育も、受けさせてもらえなかった。だからオリビアと違って、私は語学ができなくて……あのときは、ごめんね」  一年目の試験に対する負い目が、ノエミにはあった。  これまでは困らなかったから、あまり気にしたことがなかったが、アマンドの隣に立つ身となって、知識が無いのは致命傷なのだと理解した。  だから、それ以降は、どんな勉強でも頑張った。  マリーン公爵の思い通りになるのも嫌だったし、ノエミとくっつけられたアマンドが、マリーン公爵家で飼い殺されるのも絶対に駄目だと思った。 (アマンドは才能がないんじゃない。見せ方を知らないだけよ。あのキラキラした弟と寸分変わらぬ容姿だって、打てば響く明晰な頭脳だって、もっと表に出せば評価されるのに)  ノエミはアマンドの手を握り返す。   「私はアマンドの婚約者になった。きっとこれが、私の人生の分岐点になるんだわ。私も変わるし、アマンドも変わる。そしてどっちも、幸せを掴むのよ!」  その力強い言葉に、アマンドの胸はいつも高鳴る。  ノエミがどれほど、アマンドの支えとなり続けているのか。 (僕も君の支えになりたい。そして君を幸せにしたい。……ノエミ、愛している)  その想いを込めて、アマンドはノエミの手の甲へキスをした。
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