僕を飼ってくれませんか?

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 数時間前。都内のイタリアン居酒屋―― 「上條リーダー! 乾杯の音頭をお願いします!」  幹事に促されて、私は前へ進み出た。みんなの充実した表情を眺めると、思わず感極まってしまう。  大規模プロジェクトが大成功に終わり、初めてリーダーを任されていた私は、充実感でいっぱいだった。こみ上げる感情を懸命に抑え、一同を見回してから口を開く。   「みなさん、お疲れ様でした。この10か月間、こんな頼りないリーダーを助けてくれて、本当にありがとう。みなさんのおかげで、無事にプロジェクトをやりきることができました」  部下たちから、大きな拍手が起こる。 「私はなにもできない人間なので、本当はリーダーの器なんかじゃありません。だけどみなさんに『使われる』人間としては、なかなか優秀だったかなと思っています」  40名ほどの大所帯を任されるなんて、本当は不安でいっぱいだった。それでも乗り越えられたのは、このチームだったから。みんなが全力で、不甲斐ない私をサポートしてくれたおかげだと思っている。 「リーダーとして使ってもらって、私自身も大きく成長させていただきました。このプロジェクトの成功は、みなさんのこの先のキャリアにも、大きな意味を持つと思います。だけど今日は……いまこの時間は、先のことなんて考えず、思いきり余韻に浸りましょう!」  少し涙ぐんでいる子もいる。  もらい泣きしそうになるのを堪えて、私は大きく頷きながら、自分のグラスを高く掲げた。
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