僕を飼ってくれませんか?

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「彩女さん、こんばんは」  バーのドアを開けると、カウンターから、マスターの武内涼介さんが声をかけてくれた。  カウンター5席と2人掛けのテーブル席がふたつの、小さなお店。金曜日の夜だけど、もう閉店間際だからか、ほかにお客さんはいないみたい。 「こんばんは、マスター。閉店間際にすみません。いつもの、お願いできますか?」 「もちろん。彩女さんなら、いつでも大歓迎ですよ」  棚からウイスキーのボトルを取り出しながら、マスターが微笑む。  ここのスコッチウイスキーをロックでいただくのが、私の定番だった。 「なんだか、とても充実したお顔ですね」 「実は、大きな仕事がようやく片付いて。さっきまで、部下たちと打ち上げをしていたんです」 「あぁ、ずっと携わっていたっていうプロジェクトですか?」 「そうです。初めてリーダーを任されたので、いろいろと大変でしたけど……いい部下に恵まれて、無事に成功させられました」 「いい部下に恵まれたのは、彩女さんがこれまで頑張ってきたからでしょうね」  マスターは、いつも優しい。多くを語らないけれど、ひと言ひと言に温かさを感じる。  ちょうどひと回り年上なのにとても若々しいし、落ち着いた雰囲気と柔らかい声が魅力的。ほかにも複数の飲食店を経営していて、このお店はほとんど趣味でやっていると言っていた。
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