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新婚さんらしいけれど、こんな人が夫なら奥様は幸せだろうなと思う。
だけど私は、もうすっかり結婚どころか、恋愛への興味もなくなってしまった。
入社難度の高い、外資系コンサルティングファームに就職して8年目。想像以上に激務だったから、最初の数年間は辛くて辛くて、何度も辞めようと思った。だけどいまは役職にも就いて、新入社員のころと比べると、年収は4倍近くになっている。
最近は仕事が楽しくて仕方ないし、念願の新築マンションを購入して、無事おひとりさま満喫ルートへ突入という感じ。
最初は婚期を心配していた両親も、私の年収に安心したのか、それとも諦めたのか、近ごろはなにも言ってこない。
もう時代は変わった。結婚がすべてじゃないし、さまざまな生き方がある。だけどそんなこと、両親に面と向かって言えなかった。
「はい、お疲れ様でした」
マスターの労いとともにカウンターへ置かれたウイスキーを、ひと口飲む。これだけで満ち足りる私には、きっと結婚なんて必要ない。むしろ、足枷になる。
今回のプロジェクトで、より強く思った。私の生きる道は、これなんだと。
「涼介さん、在庫チェック終わりまし……」
カウンターの奥から、見慣れない男性が顔を出した。
客がいると思っていなかったのか、私の顔を見て、彼はピタリと動きを止める。まだ若いな。大学生くらい?
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