僕を飼ってくれませんか?

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「大丈夫だよ、ガク。この方は常連さんだから」  優しい声で、マスターが手招きする。  遠慮がちにカウンター内へ入ってきたのは、ふわふわパーマのナチュラルマッシュで、大人しそうな顔をした男の子。身長は私と同じくらいかな。線が細くて、文系男子という雰囲気だった。 「バイトを雇ったんですか?」 「兄の子どもなんですよ。春に大学を卒業したのに、働きもせずフラフラしているから、とりあえずここを手伝わせていて……ほら、ガク。ご挨拶をして」  マスターに促されると、ガクと呼ばれたその子は軽く頭を下げた。 「武内雅空(ガク)です。はじめまして」 「はじめまして、上條彩女です。大学を卒業してってことは……23歳くらい?」 「はい、今年23になりました」  あまり低くない、静かな声。控えめな感じがするけれど、笑顔は柔らかくて人懐こい。 「ガク。彩女さんは、半年くらい前から通ってくださっているんだよ」 「そうなんですね」  武内くんが、またふわっと笑った。特別美形というわけではないけれど、少しタレ目で愛嬌があって、かわいらしい顔立ちをしている。まだ若いから、やっぱりお肌が綺麗だな。
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