くるくるダンス、呪い果て

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 くるくるダンス、呪い果て

                  ある日、街外れの公園で4人の奇妙な集団が集まっていた。  彼らは高峰と言うリーダーをはじめ、佐村、田中、山下といった面々で、みな青白く、線の細そうな若い男たちだった。    彼らは、「切手蒐集家の会」と呼ばれ、切手をこよなく愛し、希少な切手を集めることに命をかけていた。どんな切手も見逃さず、たとえどんなに古びたものでも、価値が見出される限り集め続けていた。  リーダーの高峰は、特に熱狂的で、常に希少切手を探し求めていた。ある日、高峰は骨董品店で、他の蒐集家たちが聞いたこともないほど古い「呪われた切手」というものを知った。 骨董屋の店主によると、その切手は、かつて栄えていた国の王が、ある手紙に貼りつけたものだった。王は、その切手を貼り終え、手紙を出そうとするや否やくるくると回転しはじめ、身体の動きが止まらなくなってしまった。臣下らが助けようにも、王のくるくる回転が速すぎてどうしようもなかったのだ。やがて王は力尽きて回転を止めたと同時に亡くなり、国も滅びたという伝説があるという。 「この切手は高いんだろうね」高峰は骨董屋の話を聞いて溜息交じりにつぶやいた。 「欲しいのかい?」 「できれば、手に入れたいね。変わった伝説だが、興味を持った。それにこの切手の絵も変わってる」 「というと」高峰が切手を食い入るように見ているので、骨董屋も気になったようだった。 「だってさ、時代は古いのだろうけど、若い男二人が踊っている絵なんて…。本当に伝説の切手なのかな」 「本物さ。呪われた切手と言われている唯一のものだ。だが、伝説はあくまで伝説。本当に呪われて王が亡くなったかどうかは不明だ。で、君はこれが欲しいのか」 「売ってくれる?でも…」 「やるよ」骨董屋はさらりと高峰の不安をかわすように言った。 「え、ただなの。本当?」 「ああ、そろそろ店頭から下げて、処分しようかと思っていたところなんでね」  骨董屋は、喜び勇んで切手を持ち帰る高峰を、どこか憐れむような視線で見送っていた。 ‐‐‐ 「みんな、これを見てくれ。『呪われた切手』と言うそうだ。伝説がある希少切手だぞ!それに、この切手はただで手に入ったんだぜ」リーダーの高峰が皆に見せびらかすように言った。  他のメンバーたちは、興奮した様子で高峰を囲みながら、 「え、本当にそんなものがあるのか?ただの都市伝説なんじゃない」 「佐村、これは本物さ。きっと」 「見た目はただの古い切手と思うが…。何がそんなにすごいんだ?」 「田中、この切手には王がかけた呪いが込められているのさ。これを貼った手紙を持って、呪いは手紙の相手ではなく自身に呪いをかけることになってしまった。相手国を滅ぼそうとしたけど、自分の王国を滅びさせたと言われている。そして、その呪いを持つ者は…」  彼は不気味な笑みを浮かべ、 「自らも同じ運命を辿ることになると言われている…なんてね」 「リーダー、冗談だろ。そんな切手が本当に呪われているわけないさ。まあ、価値はありそうだけど」 「山下、ちょっと、話を盛って俺が作っちゃたけどな。だけど、切手を貼ったところ王が死んだというのは聞いた。だから今夜、これを詳しく調べてみようぜ」  その晩、彼らはリーダーの家に集まり、呪われた切手を手に取っていた。 「ねぇ、こんなに近くで見ると、なんだか本当に不気味な感じがしないか?」田中が呟いた。 「ああ、確かに。周囲が少し冷たくなった気がする。気のせいかもしれないけど」仲間の山下も同調するかのように言った。 「いや、単なる気のせいだろ。高峰、早くその価値を調べてくれよ。俺はもう休みたい」佐村は、面倒くさそうだった。 リーダーの高峰は真剣な表情をしながら、「もう少しだ。じっと見ていると、何かが…動いている気がする」と皆に注意を促した。  メンバーたちはざわつき始めたが、全員がその場を動けないでいた。何かに引き寄せられるかのように、全員が切手を凝視していた。すると、突然、部屋の空気が重くなり、天井から不気味な風が流れ込んできた。  田中は、 「な、なんだ?風もないのに、どうして…」驚きを隠せないように震えだした。  山下も、 「これは、本物なのか?まさか、本当に呪われているのか…」と。  すると、彼らの体に異変が現れた。全員が、まるで何かに操られるかのように、ゆっくりと回転し始めたのだ。  佐村は、 「や、やめろ!俺の体が勝手に回り出してる!何もしてないのに!」と叫んだ。 「くそっ!俺もだ…!まさか本当に呪いが…?」リーダーの高峰は困惑していた。 「切手だ…!あの切手が俺たちを呪っているんだ!」田中は震えて怯えながらも身体がくるくる回り続けていることに恐怖を感じていた。  彼らは次第に激しく回り続け、ついには自分たちの体を制御できなくなった。そして、彼らの身体はくるくるしすぎて徐々に疲弊していった。 「リーダー、これを止める方法はないのか…?こんなの、無理だ…俺たちはこのまま、くるくる回り続けて死ぬのか?」山下はくるくるしながらも高峰を睨みながら、諫めるように言った。 「切手を破ってしまえ!それしか、もう方法は残っていない!」 「佐村、だめだ。破れない」高峰が切手を破ろうとすると、彼らの体はさらに激しく回転し始めた。    切手の中の瞳が、きらりと光ったかのように見えた。  すると、 くるくる くるくる 高峰と佐村がペアになった。 くるくる くるくる 山下と田中がペアになった。  互いが手を取りながら、くるくる、くるくる回転する。ダンス経験のない彼らだったが、熟練のダンサーのように華麗に回転していた。激しく、くるくる、くるくると。だが、それは意に反したこと。 呪いなのか、彼らは自己制御できなかった。 「ダメだ…止められない!くそっ、誰か助けてくれ…!」皆、異口同音に叫んだ。  その瞬間、彼らは一斉に回転しながら、息絶えた。 ‐‐‐  蒐集の情熱は、嵌まり込むと落とし穴がある。 忘れてはいけない。良いことも悪いことも引き寄せる。呪われたものの意味は、時に封印したままの方がよい。 なぜ、くるくる回転するのかって? 忘れてはいけないって話したね。 世の不思議はエトセトラ。 封印しておくのが、身のため、未来のため…なのだ。                                               
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