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生きていたかった
成績優秀、大手企業へ新卒入社。
頼りになる、見本になる、別れを惜しまれる。私はそんな存在だった。
特別な存在だった。
家族も親戚も誰もかも。
私を期待し褒めてくれた。
「ストレス性の胃腸炎ですねぇ」
ぐうたらしているアイツらとは違う。
ぬるま湯に浸かる人間達と私は違う。
バリバリに働き、注目を得た。
人生を謳歌するとはこの事だ。
「鬱、そして自閉症の傾向があります」
立ち止まる訳にはいかなかった。
皆の視線が他方へ向くから。
主人公は、私がいい。
「休職しましょうか」
まだ負けてない。
まだ私は働ける。
まだ見られてる。
「子宮内膜症は閉経まで続くので」
なんで?
「ギャンブル依存症ですねこれは」
「任意整理との事でよろしいですか?」
「いつまで寝てるんだ甘ったれんな!」
「二社目の任意整理という事ですね」
「アンタなんか産むんじゃなかった」
「母さん達を苦しめんなよバカ姉貴」
「階段から落ちた。あー、折れてますね」
「骨折痛いよね〜リハビリ頑張ろうね」
「しばらく顔を見たくないの」
「入院しながら反省してろ」
「金ばっかかかって仕方ねぇな」
「ご家族、何も持って来てくれないの?」
「入院道具を書いた紙、渡したよね?」
「ちゃんとやらないと治んないよ!」
「リハビリしないって聞いたよ、何で?」
「知らない利用明細が来てんだけど」
「まさかアンタ、また借金したの?」
「泣きたいのはこっちだ!!」
「で? 言い訳は良いから結論聞かせて?」
「出て行くって何? 逃げんの?」
「人のせいにするな、いい歳して!」
「反省文とか送って来ないで寒いから」
「黙って入院してろよクソ野郎!!」
理解されなかった。
寄り添ってもらえなかった。
帰る場所が無くなった。
「なんでこうなっちゃったかなぁ」
逆さまになる。
落下する。
誰からも望まれていないので。
全身麻酔のような違和感と共に。
最後の注目を集めながら。
私は、頭から。
ぐしゃ、と消えた。
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