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「舞踏会を開こうと思う。身分のいかんを問わず、未婚女性を国中から集めてくれ」  キリッと格好をつけたポーズでこちらを見てくる王太子を前に、アレクはため息をひとつついた。 「シンデレラでもあるまいし、国中の女性を集めて舞踏会を開くようなぼんくら王子が自分の親友だなんて」 「俺のためだけに開かれる、美しい花を集めた舞踏会。男の夢だろうが!」 「そんなくだらぬ夢など知ったことか。そもそも、身分を問わず未婚女性という条件ならば、下は幼女から上は老婆まで全部呼ぶことになるが。許容範囲が広すぎて驚いたな」  蔑みの眼差しを隠すことなくアレクは王太子を見つめた。 「未婚でなおかつ年齢的につり合いのとれる貴族令嬢だけに決まっているだろうが!」 「なるほど。意中の相手や、相思相愛の恋人や婚約者がいても、自分が気に入れば召し上げると」 「ねえ、俺、どんな鬼畜だって思われているの?」 「婚約者のいない王太子殿下が、未婚の、それも妙齢のご令嬢を夜会に集めると知れば、花嫁探しだと見当がつく。容姿の良い平民の娘を引き取る貴族も出てくるだろうし、罪のない恋人たちがその仲を引き裂かれることにもなるのだろうな」 「俺はそういうつもりでは!」 「じゃあ、どういうつもりなんだ」  生ゴミでも見るかのような視線に耐えられなかったらしい。王太子はアレクにすがりつき、言い訳を始めた。ちゃんと現時点で貴族名鑑に載っている令嬢だけを招待するからとべそをかいている。 「だって、俺の誕生日のためにドレスを着てお祝いしてほしいんだもん」 「『だもん』じゃない」 「好きな女の子に可愛い格好をしておめでとうって、言ってほしいのはわかるだろう?」 「知るか。そもそも王命で呼びつけられたら、笑顔で祝いの言葉くらい言うだろうさ」 「本心はどうあれ、可愛いドレスを着(胸の谷間をチラ見せし)ておめでとうって言ってもらえたら、わが生涯に一片の悔いなし!」 「もう口をつぐめ。まあいい。これに関わる諸経費は、君の予算から落とす。誕生日以降は、相当に節制することになると覚悟しろよ」 「え? 俺個人の予算なの?」 「こんな馬鹿みたいなお祝い、国の予算から出ると思うなよ」  ぷるぷると雨に濡れる子犬のように震えながら、それでも首を縦に振った王太子。そこまでして女性陣の胸元を堪能したいのかと、アレクはめまいがした。  じたばたと駄々をこねる王太子は、相手するのも面倒くさい。だが周囲のもの言いたげな視線によって無視することは叶わなかった。愚かだが、どこか憎めないバ可愛い王太子は、家臣たちからの人気が高いのである。 「まったくもってくだらない」 「うわあああああん、アレクが男のロマンを否定するううう」 「否定するに決まっているだろうが」 「おっぱいには愛と希望が詰まっているんだ……」 「死ね」  にわかに頭と胃が痛み始めたような気がする。そしてしばらくの逡巡後。王太子の乳兄弟であり、側近であり、親友であるアレクは、王太子の望む誕生日パーティーを実行するための準備に取り掛かる羽目になったのだった。
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