6.第三回!エクレア同盟

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6.第三回!エクレア同盟

<第4回 エクレア同盟会議> 「エレオノーラ様、大丈夫かしら」  ある日の放課後、バラ園のテラス席でわたしたちは座っていた。  本日4回目の『エクレア同盟会議』である。指を組みながら、エレオノーラ様のことを案じた。  叔父の仕事部屋はいつも窓が少し開かれている。前に「空気がこもってて、こんなんじゃ集中できないわ!」と怒ったところ、空気の入れ替えのために開けてくれるようになったのだ。  その開かれた窓から盗み聞きをしていたわたしたち。見つかる心配もあったが、あの天然の2人なら騙せるだろうと高を括っていた。 「まさか悪夢を見ていたなんて……」 「知らなかったの?」 「うん。僕には話してくれなかったけど」  寂しげに呟くサリオン。 「エレオノーラ様はきっとあなたには心配させないようにしていたのよ」 「……分かってるよ」  頭の中では理解しているのだろう。しかし腑に落ちていないような口調だった。  わたしはため息を隠した。前にクラスメイトから「マザコン」と呼ばれていた理由がわかった気がした。どのクラスメイトに対しても分け隔てなく穏やかな態度を崩さないサリオン。しかし母親が絡むと一気に感情が乱れる。彼に嫉妬している者からしたら、母親の話題は噂話としてはうってつけなのだろう。  話題を切り替えるように明るい声を出す。 「そろそろデートとかしたいわよね!」 「それは……難しくないか?」  サリオンの指摘に、わたしは「うっ」声を詰まらせた。  共に伴侶がいない男女がほぼ密室の状況にいるというのに、空気が甘くなることは一切なかった。話すことといえば世間話か、書類についての疑問や不備などの事務連絡。あれではせいぜい上司と部下である。  何か1つきっかけがあれば……腕組みをしながら悩むわたしに、クラスメイトたちのはしゃぐ姿が記憶をかすめた。会話の内容を思い出し、案が浮かぶ。 「『星降りの祭り』に連れ出すのはどう?」 「あぁそういえば、もうそんな季節か」 『星降りの祭り』はタランティア王国で行われる最大のお祭りだった。  光り輝く星が落ちて建国されたという逸話を持つタランティア王国。そこから生まれたお祭りである。  願いを込めながら火を灯したろうそくを、ランタンの中に入れ、王都近くの大橋を渡るというものだ。ランタンを持って渡り切ると、星のエネルギーが体内に満ちて願いが叶うとされている。  昼間にはたくさんの屋台で賑わい、街には星を象った飾りが施される。 「サリオンはエレオノーラ様を、私はオジさまを誘って、偶然を装って街中で出会う」 「そして自分がアナベルと2人で祭りを楽しみたいと言えば……」 「そう! 2人きりでお祭りデートができるわ!」 「……偶然すぎて怪しまれないかな?」 「あの2人が勘付くと思う?」 「それもそうか」  サリオンが頷く。ここにはいないクライドとエレオノーラは同時にくしゃみをした。 「『エクレア同盟』の次の目標は、お祭りデートよ!」 「おー!」  2人で拳を突き上げる。30を超えた天然2人の仲を進展させるのが目的だが、クラスメイトとお祭りを楽しめることも嬉しくて、わたしの心は踊っていた。  * 『星降りの祭り』の日がやってきた。  天気は雲ひとつない快晴。絶好のお祭り日和だ。 「わ、わー! 偶然ね!」  わたしは唇の端をひくひくさせながら叫んだ。サリオンはわたしの演技を見て吹き出しそうになっていたが、ぐっと堪えて笑顔で片手を上げた。  わたしたちが待ち合わせに選んだ場所は、王都の大通りから少し外れた評判のいい紅茶専門店だった。商人の娘であるクラスメイトから教えてもらっていたのだ。  数日前から「気になっている店がある」とわたしは叔父に、サリオンはエレオノーラ様にそれとなく伝え、祭りの時に見に行こうと話をつけていた。 「2人なら気づかない」と高を括っていたが、実際に決行すると大分無理がある作戦な気がしてきた。背中に冷たい汗を書きながら、わたしたちは目配せをする。  するとエレオノーラ様は両指を合わせながら華やかな声で喜んだ。 「クライド様、アナベルさん、偶然ですね! お会いできて嬉しいです」 「えぇ、本当に」  2人とも和やかな雰囲気で会話を進めている。この出会いが偶然だと信じて疑わないような口調である。  わたしたちはほっと胸を撫で下ろす。サリオンはエレオノーラ様の方を向き、照れくさそうに言った。 「あのさ、母さん、アナベルと2人でお祭りを見に行ってもいいかな?」 「! もちろん!」  両手で口を抑え、目をきらきらとさせるエレオノーラ様。完全に『息子の恋路を見守る母親』である。  その無邪気な笑顔に、若干の罪悪感を抱いているのだろう。サリオンは表情を一瞬だけ固くしたが、すぐに普段の穏やかな笑みを浮かべ、わたしと向き合った。 「一緒に回ってもいいかな? アナベル」 「も、も、もちろん!」  自然な笑顔を浮かべるサリオンと、不自然極まりない笑顔を浮かべるわたし。  ちらりと叔父の方を見れば、「楽しんできなさい」と目を細めた。  手を振りながら、サリオンと共にその場を離れる。  彼らの声が聞こえない位置まで歩いたところで、「作戦成功ね!」「本番はこれからだよ」とわたしたちはささやき合った。  2人を出会わせることはできた。次は、尾行作戦である。  その時、目の端にカラフルな店が目に留まった。思わず声に出す。 「サリオン、あれ見て! ドーナツだわ! 食べたい!」 「アナベルさん……?」 「普通に祭りを楽しんでないか?」とセリフが聞こえたような気がしたが、色とりどりのドーナツが魅力的すぎて、あいまいに返事をすることしかできなかった。
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