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そんな両親の頭痛の種、三男の寿三郎が七歳の時に転機が訪れる。それが従弟の正太郎に起きた不運だった。
「それで、どうして私一人が呼ばれたのでしょうか?」
大事な話があると両親に呼ばれ、従兄弟の正太郎が病に倒れたと打ち明けられた。
だが、それが手前とどう関わるのか、幼い寿三郎にはさっぱりわからない。
「お前を養子に迎えたいと正式な申し出があった。正太郎の代わりに、貞永家の後を継ぐのだぞ。悪い話ではないだろう?」
なんと兄上たちではなく、厄介者の三男に白羽の矢が立ったというのだ。
「病に倒れたと聞いていたけれど、まさか耳が不自由になっていたとはねぇ……代わりに寿三郎、あなたが貞永の家をしっかり盛り上げていくのですよ」
養子縁組の話を両親は諸手を挙げて喜んでいる。特に母は実家の行く末を案じ、我が子に未来を託したようだ。
「は、はい」
しかし、寿三郎の胸の内は少々複雑だった。人様の不幸の上に手前の幸せがある。それを素知らぬふりをして、浮かれて良いものだろうか。
気持ちの優しい寿三郎は素直に喜ぶことができなかったのだ。
ところが、いざ貞永家に行くと、それは全て思い込みだったと気づかされる。
「全てが丸く収まって、本当に良かったですね」
「正太郎が言い出さなかったら、今頃は悶々とした日々を送っていただろう」
実は今回の養子縁組は正太郎が考えた策だそうだ。既に見習いとして奉行所に仕える次男とは違い、まだ幼い寿三郎なら新しい生活にすぐ慣れるはず。的確にそう見極めて、両親に申し出たという。
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