南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳

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「当分は実家が恋しいかもしれない。もし寂しくなったら、遠慮なく私を頼りにしなさい」  正太郎が晴れ渡る青い空のような、陰り一つない笑みを浮かべた。 「は、はい。義兄上様」  余りの清々しさに、寿三郎は面喰ってしまう。 「まぁ、正太郎。もう兄さん気取りですか?」  八重がくすりと笑う。上品で淑やかそうな義母だが、意外と洒落のわかる人なのかもしれない。 「寿三郎とは八つも年が離れているのだぞ。たまには正太郎だって大きな顔をしたいだろう」  美味しそうに酒を飲みながら、平一郎が豪快に笑う。細かい実父とは違い、義父は大らかな性分のようだ。 「義兄上と呼ばれるのが、こんなに嬉しいとは思いませんでした」  そして、正太郎は頬を赤らめ、屈託なく語る。寿三郎とは違い兄弟のいない正太郎は、弟ができたことを心から喜んでいるらしい。  それに平一郎も八重も耳が聞こえなくても、息子への愛情は変わらないようだ。 「これから楽しいことばかりではないかもしれない。寿三郎、私に代わり貞永の家をよろしく頼む」 「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」  皆が手前を快く養子に迎え、我が子同然に可愛がってくれる。そして、何より頼りになるのは正太郎の存在だった。苦境に陥っても己の運命を受け入れ、前向きに生きている。  その義兄に恥じないよう、また皆の期待に沿えるよう、貞永の家を支えようと寿三郎は心に誓った。
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