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「ここには手代の犯行だと記されておるが、それが別人による犯行とでも言いたいのだろうか?」
事件は日本橋本町にある薬種問屋岸本屋で起きた。
深夜、手代の長吉が店の売り上げを盗み出したところ、店主の彦左衛門に見つかり咎められた。
すると、頭に血が上った長吉は、手にした出刃包丁を向けぐさりと彦左衛門を刺した。
怖くなった長吉は瀕死の彦左衛門をその場に残し、銭を持って逃げ出した……というあらましだった。
仲間とつるんで夜通し遊び回り、朝帰りしたところで長吉は捕まったらしい。吟味方が執拗な取り調べをした後、犯行を自白したそうだ。
それなのに、それは違うとは如何なものだろうか。気になって尋ねてみると、声の主はすぐさま返答した。
――犯人は長吉ではなく、番頭の忠兵衛でございます。
「しかしながら、その日に忠兵衛は休みをもらい、不在だったと記されておるぞ」
不思議なことに声の主は、口書には記されていない当日の様子を事細かに説明し始めた。
表向きには休みをもらったはすの忠兵衛が、実は夕方まで店の奥で算用帳の整理をしていたそうだ。そして、夜になるのを今か、今かと待ち構えていたらしい。
夜が更け店主の彦左衛門が床に入ったのを見定めると、隠し持っていた出刃包丁で強行に出たという。
その後、何食わぬ顔をして、自身番に駆け込んだらしい。
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