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亜美花さんに指定された駅前の喫茶店で、彼女が来るのを待った。運ばれてきたアイスコーヒーには、手を付けられなかった。ずっと、そわそわしていて。
亜美花さんと最後に会ったのは、兄貴と最後に会ったのと同じときだ。夏休み、兄貴が実家に帰ってきたとき。そのとき、三人で焼肉を食いに行った。亜美花さんは、俺にばかり話しかけてくれた。気を使ってくれていたのだと思う。学校のことや、はじめたばかりのバイトのこと、いろんなことを話した。兄貴はせっせと肉を食っていた。三人で過ごすときは、いつもそうだった。俺は、兄貴とは普段あまり話したりしないし、父親は家にいないし、母親にはあまり心配をかけたくないしで、ちょっとした愚痴なんかを言える相手がいない。亜美花さんだけだった。だから、3か月に一回くらいある、三人での食事は、俺にとっては意味があった。二人にはなかったとしても。亜美花さんは兄貴とは高校生のときからの仲だから、食事には何度か、というよりは、何度も、行った。亜美花さんが、俺の事情をどこまで察していたのかは、知らない。
「康介くん。」
心ここにあらずでそんなことを考えていると、向かい側の席に、軽やかに亜美花さんが腰を下した。丈の短いデニムのスカートが、視界の端で揺れる。
「待った?」
「いえ、全然。」
そっか、と笑った亜美花さんは、この前会ったときより少し痩せたように見えた。髪も、少し伸びた。
「3か月ぶり、かな?」
「はい。」
「また背、伸びたんじゃない?」
「多分、少し。」
亜美花さんはすらりと手を上げて、近寄ってきたウエイトレスさんに、アイスティを注文した。
「それで、どうしたの? 康一に、なにかあった?」
ウエイトレスさんが離れていくのを見送ってから、亜美花さんが身構える様子もなく訊いてきた。俺は、口ごもった。なにをどう伝えていいのか分からなかったけれど、わざわざ俺の最寄りまで会いに来てくれた亜美花さんに、半端な誤魔化しを伝えるのも違うと思っていた。
「気にしなくて、いいのよ、色々。もう、康一とは別れてるんだし。」
茶色い丸テーブルに肘をついて、亜美花さんは唇の端で笑った。
「いつ、」
別れたんですか?
思わず口に出た問いかけに、亜美花さんは一瞬ぼんやりした顔をした。斜め上を見上げて、表情の覇気をなくす。
「……この前、夏、会ったでしょ?」
「はい。」
「あのときはもう、別れてたよ。」
「え?」
「康一に頼まれたの。まだ付き合ってるふりしてくれって。それで、康介くんに会った。」
俺は心底驚いて、亜美花さんを凝視した。亜美花さんは俺の方を見て、ちらっと微笑んだ。
「康一は馬鹿だからね。自分じゃ康介くんの愚痴とか聞き出せないから、私を呼ぶの。いつも。」
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