3 潮音さんと反捕鯨勢力

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 火曜日の昼休み。今日の私のお弁当は自家製ホットドッグだった。  朝寝坊して急いでいたので、ロールパンにウインナーを挟んだだけのものだ。  それにマスタードの小袋を二つかける。湯葉が私の手元を見てうははと笑う。 「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ? 正解は……(かのと)激辛(げきから)ロールパン!」 「のんきだねぇ。御手洗くんとの決着はついたの?」 「うーん。御手洗くんはやっぱりロマハラは非現実的だってさ」 「そりゃそうだよ」 「そうかなー」  御手洗くんは今日は演劇部の方でミーティングがあるとのことで不在だ。  二人だけの昼食と思いきや、「失礼します」と教室に入り、つかつかとこちらに歩みよってきたのは潮音さんだった。    候補者同士の喧嘩でも始まるのか、と教室中から視線が集まる。  が、潮音さんが声をかけたのは私だった。 「紺頼さん。昨日はありがとう。こちらをお礼に」  手渡された蔓草模様の包みを恐る恐る開けるとシンプルな銀のお弁当箱。さらに蓋を取ると、こんがりと焼けたジューシ―な……コロッケ? 「クラブケーキを作ったの。食べて」 「え、これケーキ?」当惑する私に、 「(かのと)は甘いものが好きじゃないんだよ」と湯葉が横から口を出す。 「クラブケーキは甘くはないよ。カニの身をたっぷり詰めた、カニクリームコロッケのような料理」  それに、と潮音さんは心得顔で付け加える。 「もちろんチリソースも持ってきたの」  真っ赤な小瓶に迷わず伸びた私の手を湯葉はパシッと叩き落とす。  叩かれた手をさする私に慌てて「ごめん!」と謝りながらも、湯葉は目を吊り上げる。 「食べもので釣らないで! (かのと)も釣られるな!」 「やだな、湯葉さん。これは賄賂とかじゃなくて感謝のしるしだから」 「ああ、感謝のしるしならぜひ受け取らなくちゃね」 「(かのと)!」  クラブケーキはおいしかったが、湯葉の機嫌はまずくなった。  黙々とむさぼる私とむっつり黙りこむ湯葉を、潮音さんはにこにこと眺めていた。  今まで知らなかったけれど、彼女は笑っていると小柄な体格もあいまって小動物のような愛嬌がある。 「ねえ、かのぴっぴ。今日一緒に帰らない? 家は同じ方向だよね」  急に砕けた調子で話すようになった彼女に対し、 「(かのと)ですでにあだ名なんだからさらにあだ名をつけるべきじゃないよ」  湯葉はあからさまに苛立っていた。  ジューシなカニ肉と酸味の効いたチリソースを味わいながら、私は不思議に思った。──潮音さんって、こんなに親しげに話す人だったかな? 「……いいよ。一緒に帰ろう」 「えっ、ちょっと(かのと)!」 「二人でね」と潮音さんは私ではなく湯葉の方を見て、念を押した。
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