割れないシャボン玉

10/13
前へ
/13ページ
次へ
 桔梗には医療知識もある。DNA鑑定の技術もある。この仕事の特殊性からそれができる社員は珍しくなく、設備もある。万が一の為社員全員の血液保存もあり――、  そして桔梗はその死体を、美鷺だと断定した。  見つけたとき、死体の側には花だったらしき数本が落ちていた。右足首が縦笛で添え木されハンカチが巻かれていた。腐敗して定かではないが外傷はないと思われ、争った形跡もなく。  桔梗が想像するに――花を集めているうちに大して高くもない丘もどきから落ちて足を骨折、動けなくなった。スマホは少し這えば届く場所に落ちていたが、足の応急手当をしたところで面倒になって「後は明日でいっか」と眠り込んだ――。  もう夜はかなり冷える。加えてすぐに帰るつもりだったのか相当な薄着。ちょっと考えれば危険だとわかる。けれど不用意で不用心で迂闊な美鷺なら、あり得ることだった。正常性バイアス――自分にそんなことが起こるはずない。そういう思い込みが。  違う。仕事上のトラブルで、恨まれ狙われ。その際怪我をしたから気配を消してあそこに潜んで。そう、ちゃんとした戦いを全うした上で――  そう思い直そうとした。思いたかった。けれどどうしても、最初の想像に戻ってしまう。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加