割れないシャボン玉

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「このチームから外してくれ」  蓮が部長に食ってかかっていた。桔梗もかばう気など全くない。原因の吹き矢係、美鷺(みさぎ)は首をすぼめて下を見ている。 「最初の吹き矢が遅れたらドミノ的に作業が遅れる。下手するとあんたも今ここにいない。そういう仕事なの、わかってんのか?」  どうせこんなことが起こるだろうと思っていた。だから桔梗はナイフも煙幕も余分に持った。余計な重量が増える分、動きが鈍くなるリスクがあったのに。 「で、でも、そんなことに、なるわけ……」  気の抜けた言い訳に桔梗は激怒。 「あんたばっかいつだって今日と同じ明日が来る、なんて都合よく思ってんじゃないよ! そういうの、正常性バイアスっていうのよ!」 「ま、まあま、2人とも。美鷺もそれなりに頑張って……」 「部長! それなりの奴をかばってこっちに死ねと?」 「美鷺に実戦は無理! 事務仕事に回しといて!」 「事務じゃもっと無理だろうが」  蓮も桔梗もやいのやいの部長に責めかかる。 「いやその、もうちっと我慢してくれや。人手不足で」 「無理です」  蓮は辞表を叩きつけて出て行った。部長が哀願の目で桔梗を見る。 「嫌ですよ。あたしだってこんな迂闊な女、預かり切れません」 「幼馴染だろ。お前ならフォローできる。頼むよ、他に引き受け手がないんだ」 「うん、わたし桔梗ちゃんと一緒がいい」  美鷺はしれっと言う。  あたしゃごめんだ。そう言おうとした矢先、美鷺が「あげる」と椿の花を差し出した。  ミッションの前には持っていなかった。想像するに、美鷺はこの冬おそらく最初だったろう椿の花を見つけ、ターゲットよりそっちに目が行って――それで吹き矢が遅れた。 「要らない!」  桔梗も不機嫌に部屋を出た。 「何であたしが。単に里が同じの同い年ってだけで」  いつもこうして押し付けられる。
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