割れないシャボン玉

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 感情排除。シンプル。集中力。この仕事の三大原則だ。  江戸時代あたりから隠密や暗殺を手掛けていた一族が、現代でも日本のあちこちに点在する。その末裔は密かにその能力を伝え鍛え続けた。ただ、発揮する場は狭まり、近年そういったメンツを集め、依頼を受けてスイープを請け負う会社を興した者がいたのだった。もちろん見た目は普通の会社だ。リクルート雑誌にも載っている。が、100%がコネである。  桔梗と美鷺が生まれたのも、そうした一族の里だった。  が、走るのも知識の吸収も武器を扱うのも、総合的に器用にこなす桔梗と違い、美鷺は転ぶ、学ばない、武器を壊す等、散々だった。それも、よそ見、興味がない、ろくに聞いていないから適当に、といった、およそ桔梗からすれば信じ難い体たらくで。  親が早死にした同士、同い年の女の子、ということで、桔梗は必ず美鷺とペアリングされた。いつも足を引っ張られ、他のペアとの競争に負けてばかりだった。  隠密や暗殺に邪魔な「感情」を持たないよう育ったはずなのに、常に美鷺にイライラさせられた。だから東京に出て来たのだ。表向きは「お掃除会社」の社員として。  なのに、まもなくして美鷺は桔梗を追ってきた。そして、美鷺には社会常識のホウレンソウも欠落していた。 「LINE連絡、読んだんでしょ! 明日のことなのに何で返事しないの?」 「どうして本番に遅刻するのよ。無連絡のドタキャンも多すぎる!」  美鷺はしょっちゅう桔梗を怒らせた。それでもすぐ能天気に切り替わる。 「ねえこの花、桔梗ちゃんに似合うと思って」  どこで見つけるのか、珍しい花を摘んできては桔梗に捧げてくる。正直、桔梗はそれらを花瓶に生けて、毎日水切りして、水を替えて、といったことが好きじゃなかった。それですぐに枯らしてしまう。部屋に余計なものを置きたくない。会社に言われなくともシンプルイズベスト。そういう桔梗の気性に気づきもしないのが美鷺なのだ。  案の定、仕事上散々なお荷物で、桔梗は毎日のように部長に「三つ目の原則、集中力が削がれる」と直訴しまくっていた。
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