割れないシャボン玉

「今度の予行演習についてのLINEチェックはしたのか？　１日以内の返事がルールだが」
「昨日のドタキャン、一昨日の遅刻の理由は？」
　管理職の忍耐強さなのか、あるいは親目線なのか、それでも部長は美鷺に甘かった。
「あっ。すみません、カレーをより美味しく作るには、って何度もやり直してたら……LINE見るの忘れてた」
「一昨日は落とし物探してたら遅刻になっちゃった。昨日はえっと、朝ゴキブリが出て、格闘してたら時間を忘れて」
　美鷺からは悪びれもなくそんな返事しか返ってこない。
「優先順位がおかしい！　カレーは返信の後心ゆくまでどうぞ！　ゴキ退治より時間厳守、アラームかけとけ！」
　先に桔梗が怒鳴り、そして部長が「気をつけてくれないと困るね」と睨む。その都度美鷺は焦って正すのだが……忘れっぽいのか呑気なのか、数日するとまた同じことを繰り返す。命がけの仕事をしているという自覚なく、迂闊で不用心で不用意なのだ。だから毎度こちらも綱渡りになる。
「チーム替えてください。でないとあたしも共倒れさせられます」
　だが、日常定型フレーズのその文句、次のミッションから……言い辛くなった。