割れないシャボン玉

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 ミッションのないときは、桔梗は一人で街を闊歩する。怪しまれない「普通の女子」を演出するための研究も、仕事のうちだった。  女の子が集まっている雑貨屋があった。覗いてみれば、ピアスやネックレスなどが並んでいた。アクセサリー類は、いざというときに邪魔になるのでつけない。シンプルイズベスト――だけど。  この前、髪が乱れて危うかった。すぐにバッサリ切ったが、更に留め具があった方が良いと思った。桔梗は前にいた女の子が買い求めたのと同じバレッタを手に取った。鳥が翼を広げている形の。何も考えずに買ったが、つけてみると軽くてまとまりやすく、爽快だった。  うん、機能的でいいじゃない。  翌日それをつけて出社した。 「そのバレッタ、いいね。可愛いね」  早速めざとく美鷺が褒めてきた。「その鳥って、鷺かなあ?」と嬉しそうだ。 「可愛いとかの感情、表に出すなって」  何度も同じことを言わせる美鷺が腹立たしい。それに「美鷺」の「鷺」にちなんで買ったわけじゃないから!  そう言ったのに、出社する度、同じ日でもすれ違うごとに、美鷺は「それいいよね。すごく似合う」と言ってきた。  もしかして欲しいのか? 都度都度褒められるのも鬱陶しくなってきた。あげてしまおうか。けれど想像するに、天に掲げて大喜びする――そう思うとムカつくのでやめた。 「美鷺、ちゃんと家の鍵はかけてるだろうな」 「パソコンは使えるようになったか。わからないことは聞けよ」 「あ、はあい」  部長は何だかんだ美鷺に甘い。出来の悪い子ほど可愛いという原理か。 「あたしにはそんな助け舟、出したことないですよね」 「お前は言わなくたってできてるだろ」  里にいた頃からこうだった。桔梗だって何でも楽々できたわけじゃない。勝手に周りが手を差し伸べてくれる美鷺を見て、「あたしだって頑張っている。頑張ったからそれができている」と結果で訴えていたつもりだった。けれど誰も気づいてはくれなかった。
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