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となりの家。百合という人が住む、小さな家から、声が聞こえてくる。
「 K大学なんて、恥ずかしいわ。早稲田なら、胸を張って歩けるわ 」
「 こんなに可愛い人に、K大学なんて似合わないよ。よかった。なにもなくて 」
僕は、安心した。百合を好きになれなかったことは、正解だった。
それからしばらくして、早稲田と百合は
この町から、居なくなった。
夜、ひっそりと引っ越ししたらしい。
「 よかったわ。これで爽やかな横丁に戻ったわ 」
棟梁の奥さんが、部屋を片付けながら言った。
隣のU子も、なにも言わなくなった。
棟梁が、U子にさんざん説教をした。
棟梁は、俳優の、内藤剛志さんに、奥さんは、宮崎美子さんに、よく似ている。
商店街で、知らない人に
「 あれ? 宮崎美子さんですか? 」
そう言われたと、笑いながら、母と話していたのを、憶えている。
百合は、姫鏡台を一つ残して行った。
「 これは、捨てるわ。中になにも入っていないし 」
棟梁の奥さんは、鋭い人だなと感心した。
「 お兄ちゃん、百合さんがいなくなって、ほっとしたよ 」
ブランコの膝の上で、瑠璃ちゃんと、胡麻せんべいを食べている時に、瑠璃ちゃんは
ぽつりと言った。子どもは、意外と本質
を見抜くらしい。
それから僕は、人を外見では判断しなくなった。
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