第一話

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「会社同僚、上司、友人によりますと、これまで被害者には女っ気が全く無かったようです。パソコンとスマホが恋人といった感じの人間だったと言っています。それが、この夏になってネット上で彼女と親しくなり、事件の数日前に『涼香ちゃんが泊まりに来る』と自慢げに投稿しています。その前後も、『涼香』に関する投稿が目立っており、『涼香』本人とのやり取りも公然とされています。よって、この歯ブラシが彼女の物である可能性は極めて高いと考えられます」  管理官が「可能性」という言葉に、手にしていたボールペンで頭を掻くのを見て、捜査員がすかさず続けた。 「『涼香』の身元が割れたら、DNAサンプルの提出に協力してもらいます」 「よし。じゃあ次、その他現場の遺留品」  また別の捜査官が手を挙げ、資料を見ながら話し始めた。 「はい。使用されたテトロドトキシンですが、詳しい検査の結果、クサフグから抽出された物だと判明しました。食用としての流通はほとんど無い種類ですが、近海に多く生息しており、釣り人にとっては外道として一番馴染み深いフグです」 「入手経路の特定は不可能、と言っているように聞こえるが?」
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