第一話

8/10
前へ
/50ページ
次へ
 管理官の言葉に捜査官が頷いた。 「そうです。釣り人、とも絞り込めません。何しろ釣り場に行けば、釣り上げられたクサフグが海に還されずに、陸上に放置されていたりもしますから」  新たな質問が来ないのを確認して、捜査官は話を続けた。 「次に、被害者宅にありました空のワイングラス。こちらからは、被害者以外の指紋は検出されませんでした。もうひとつのグラス、及び、ワインボトルには、被害者の物を含め、指紋は検出されておりません。説明は不要かと思いますが、ワインボトルには流通過程で、多数の指紋が残る筈です。よって、犯人が犯行後に拭き取ったと考えられます。その他室内には、例のピンクの歯ブラシを除いて、被害者の指紋しか検出されていません」  資料にはワインボトルの写真が添付されている。どこのスーパーでも手に入る国産の安いワインだ。ワインの入手経路からも容疑者を絞ることは難しいだろう。だが、資料を見ながら報告を聞いていた川島も含め多くの捜査員は、楽観視していた。被害者と一緒に居た「涼香」の身元が分かれば事件はすぐに解決する筈だと。 「どうしたんですか警部、眉間の皺が深いですけど」
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加