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川島が会議室の後方で隣に座る比嘉の顔を見て言った。
「犯人像が見えないんだよ。用意周到なくせに証拠を残しまくっている」
「まあ、確かにそうですけど、考えすぎじゃないですか?」
川島はそう言いながらも、自身が放った言葉に早期解決を願う都合のいい思いが多分に含まれていることを自覚していた。
そして事件発覚から三日後、「涼香」の身元が判明した。
伊藤涼香二十三歳。被害者の大迫和馬との関係は、ネット上の付き合いだけしか浮かんでこなかった。殺人そのものを楽しむ為に殺したのでなければ、殺人の動機に繋がりそうな事象は見えてこない。
「伊藤涼香……聞き覚えがあるな」
部下からの報告を受けて考え込む比嘉の横で、川島がスマートフォンを操作している。やがてその川島があるページに辿り着いて目を見開いた。
「警部、これ。伊藤涼香ってあの子ですよ。五年前に話題になったイジメの……」
川島が差し出したスマートフォンの画面には、五年前に比嘉がテレビで見た女子高生の顔が表示されていた。ただ、あの時のテレビとは違い、目隠しの入っていないオリジナルの画像だ。比嘉の脳裏に、妻の麻美が溢した言葉が蘇ってきた。
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