第二話

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「被害者の携帯の機種だ。指紋認証が付いている。死ぬ前なら動かなくなった被害者の指でも当然ロックは解除される。毒を用意して計画的に殺害した犯人が、何故それに気付かない? 歯ブラシにしたってそうだ。ワインボトルだけじゃない、部屋に指紋を残さないだけの時間的、精神的余裕もあった。それなのに、歯ブラシを忘れるか? 賭けてもいい、この事件はそんなに単純じゃない」  自信たっぷりに言い切った比嘉だったが、川島からすると単純な事件をわざと難しく考えているようにしか見えなかった。  事件を解決に導くきっかけが見つけられず、机を叩いていた比嘉の指の隣で捜査本部の電話が鳴った。外線からの着信だ。比嘉は電話をスピーカーで受けた。 「はい、特別捜査本部」  電話を受けて数秒間、スピーカーから流れるのは駅の雑踏の音。発信者の声は聞こえない。 「もしもし? 情報提供ですか?」 「伊藤さんは……犯人じゃないと思います」  若い男の声だった。端末のディスプレイは、公衆電話からの着信を示している。 「失礼ですが、先にお名前とご連絡先をお教え願いますか? 外部に漏れることはございませんので」
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