14人が本棚に入れています
本棚に追加
再び数秒の沈黙の後、電話の男はたどたどしく話し始めた。
「電話は、あの、持っていません。ぼ、僕の名前は鈴木太郎です」
その名前を聞いた川島が、比嘉にしかめた顔を向けた。比嘉はそれに「分かっている」と口の動きだけで川島に伝えた。
「ご意見ありがとうございます。伊藤さんが犯人ではないという根拠を何かご存じなのでしょうか?」
今度は間を開けずに鈴木太郎と名乗った男からの答えが返ってきた。
「伊藤さんの部屋の前に、何度か怪しいおじさんが居たのを見ました! 伊藤さんが人殺しなんてする筈ないです! きっと、あのおじさんが……」
大きくなった声に周囲の目が気になったのか、男の声は急に小さくなり途切れた。その背後で駅名を含んだアナウンスが流れると同時に、川島が別の端末の受話器を上げた。
「鈴木さん、詳しくお話を伺いたいので直接お会いしたいのですが。今どちらですか?」
「ぼ、僕も、そのおじさんに狙われるかもしれない……」
「大丈夫ですよ。情報提供者の秘密は守られますから」
「で、でも、一生僕の身を守ってくれるわけじゃないですよね?」
最初のコメントを投稿しよう!