第三話

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 新しく手に入った証拠はたったひとつ。だが、決定的な証拠だ。工場にある産廃用のゴミ箱の中に捨てられていたワインボトルとグラスの破片から、テトロドトキシンが検出された。帰国した谷本が、通報するまでの間に指紋も毒も付いていない物とすり替えたのだろう。  社長である谷本は、事件以降も工場を平常運転させている。下手に動けば注目されると思っているのか、余程自分の計画に自信があるのか。  解決の突破口となった情報を提供した神崎の足取りも掴めている。翌朝、比嘉達は神崎が身を寄せている千葉県松戸市にある神崎の伯父の家へ向かう計画だ。  その前に部下たちの好意に甘え、比嘉は自宅でゆっくりと疲れを取ることになっていた。だが、その予定は比嘉のスマートフォンへの着信で儚くも崩された。 「もしもし、脇坂です」 「なんだ、どうした?」  脇坂は、相棒と共に谷本の監視をしていた。比嘉の胸に嫌な予感が走る。 「三十分前に谷本が自宅を車で出たんで追尾しているんですが、どうも松戸方面に向かっているようなんです。中央環状線に乗って、葛西ジャンクションを北進しています」 「分かった。私もすぐに向かう。応援要請と神崎君への連絡は?」
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