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第一話
二階建てのアパートの一室。その部屋一帯はブルーシートで覆われている。二階の一番階段よりに位置するその部屋の玄関ドアは開いたままで、「立ち入り禁止」と書かれた黄色いテープが貼られている。ブルーシートは外からの視界を塞ぎ、玄関は開け放たれて人の出入りを繰り返し、黄色のテープは、ただその下を潜る為だけに貼られているかのようだ。
その状況のちぐはぐさを気にも留めず、比嘉はテープの外側から部屋を覗き見た。鑑識によって床に敷かれたシートが、取り去られようとしている。どうやら彼らの仕事は終わりに近いらしい。比嘉は部屋の奥から玄関に向かって来た一人に声を掛けた。
「いいかな?」
「ああ、警部。お疲れ様です。どうぞ」
少なくとも死後五日は経過している――。
猛暑日がようやく途切れた八月下旬、この現場に向かう前に受けたその連絡に、比嘉は悪臭を覚悟していた。だが、部屋のエアコンが唸りを上げていたからか、死臭よりも吐しゃ物の臭いの方が強烈だった。
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