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「でも、その懐中時計、時間が狂ってたんじゃないですか? こっちの腕時計は一時二〇分過ぎで止まってますよ」
谷本の左腕に巻かれた腕時計を指して言う鑑識の言葉に比嘉は確信し、もう一度神崎の方に目を向けた。正当防衛だったとしても、殺人の現行犯だ。神崎の腕に、手錠が掛けられようとしていた。刑事が神崎の肩に手を置き、何かを語りかけて緩めに手錠を掛けられた時、神崎が僅かに笑った……ように比嘉には見えた。
神崎賢人は、取り調べにはたどたどしくも詳細を答えていた。寧ろ、神崎の方から事細かに谷本の胸にナイフが刺さるまでの経緯が話された。
「恐ろしいですね」
川島がマジックミラー越しに神崎を見て口にした。
「警部が気付いていなかったら完全に騙されていましたよ」
比嘉はまだ黙って神崎の様子を見つめている。
「いつまで神崎に気持ちよく話させるんですか? 芝居だと分かっていてあれを見続けるのは気分悪いですよ」
神崎は涙交じりに時に謝罪し、時に伊藤涼香を嵌めて自分を殺そうとした谷本に対しての怒りを露わにした。
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