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死体はベッドの上で身体をくの字に曲げた状態で横を向いていた。綺麗に整頓された部屋の中央に置いてある折り畳み式のテーブルにはグラスがふたつ。ひとつにはワインがグラスの半分まで注がれている。もうひとつは、飲み干した後だろう、グラスの底に僅かに赤いシミを残している。ワインのボトルも、コルクが付いたままのオープナーと共にテーブルの上にある。食べ物は袋に入ったままの個包装のチーズが置いてあるだけだ。
「通報してきたのは、ガイシャの勤め先の社長だって言ってたよな?」
比嘉が、共に現場に入った部下の川島に確認した。
「ええ。今、脇坂さんが外で話を聞いている筈です」
比嘉はその答えを聞きながら現場を見渡している。
「殺し……だろうなあ。嫌な感じだ」
「嫌な感じと言いますと?」
地域課から捜査一課に移って五年の川島も、まだまだ比嘉から学び取れることが多くある。質問されるのを嫌がらない比嘉は、川島にとっては理想の上司だ。
「綺麗な現場ってのは一癖も二癖もある。鑑識の仕事が早く片付く現場ほど、刑事の仕事は長引く」
「なるほど。それは確かにそうですね。しかし、少なくともベッドの上は汚いですけど……」
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