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比嘉の質問に、谷本は淀みなく答えた。
「その休みの間に気付いたことはございませんか?」
「うちは小さな工場ですが、あまりプライベートには干渉していませんし……。それに私は休みの間、家族と海外に行っておりましたので」
「海外ですか。いいですね、羨ましい。ちなみにどちらへ?」
「はい。オーストラリアのケアンズに」
メモを取っていた川島は、ケアンズの文字の横に小さく「ウラヤマシイ」と書き、すぐにその文字を黒く塗りつぶしていた。
「あの、そろそろ大丈夫でしょうか? 会社に連絡を入れて随分経っているので……」
谷本が上着の胸ポケットから懐中時計を取り出して、時間を確認してから呟いた。
「ええ、結構ですよ。ご協力ありがとうございました。しかし、随分レトロな物を使っていらっしゃるのですね」
比嘉が懐中時計を指して言うと、谷本は「いやあ」と首を横に振った。
「腕時計は仕事柄邪魔になるんです。かと言って携帯のデジタル表示の時計じゃピンとこない。これも形は古臭いですが、電波時計なんですよ。もう少し良いヤツだと、防水のもあります」
「へえ、そんな物があるなんて知りませんでした」
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