プロローグ

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「民間人は容赦がないね」  警視庁捜査一課に所属する比嘉(ひが)修二《しゅうじ)警部が、朝食のアジの開きをつつきながら溢した。食卓に向かい合って座る、妻で元新聞記者の麻美(あさみ)は、それに同意するでもなくテレビの画面をじっと見ている。  朝の情報番組で流されていたのは、一枚の写真がインターネット上に投稿されたことから起こった、あるトラブルの悲しい結末だ。正確には比嘉が悲しいと感じただけで、制作者の意図は、視聴者にやりきれない悲しみを感じさせることにはないようだ。  発端は一か月前。都内の男子高校生のグループが、軽度の発達障害がある同級生の男子に対して行ったイジメから始まった。クラスメイトの目が多くある中で、その男子生徒に自慰を強要したのだ。そして、その終わりに出た体液を自分の手のひらに受けさせ、ある女子生徒の髪に塗り付けさせた。インターネットに公開されたのは、不潔に濡れた髪に触れて、指に纏わり付く液体に首をかしげている女子生徒の姿だった。
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