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そんな結乃の平穏な成長期。そこに突然現れたのが、敏生だった。
高校2年生の冬、捨てられていた子猫を拾ってくれた人。
その時すでに、結乃は敏生の名前やクラスも知っていたので、〝カッコいい〟とかそういう理由で敏生は有名だったのだと思う。
結乃にとっては、ただの面識のない同級生。ましてやカッコいい敏生は、結乃とは存在するカテゴリーの異なる人種と言ってもよかった。
だけど、あの冬の日から、敏生は結乃にとって特別な存在になった。
近づきたい。
一言でいいから、言葉を交わしたい。
月日が経つにつれ、結乃の中でそんな願望が大きくなってくる。大きくなればなるほど、敏生の存在は遠く感じてしまう。
いつも側にいて守ってくれる父親と同じ男性なのに、結乃にとっては全く違う異性だった。
いつも遠くから見つめるだけで、どうやって近づいたらいいのかさえ分からなかった。
バレンタインデーでは、一大決心をしてチョコレートを渡そうとしたけれど、結局敏生の視界に入ることさえできなかった。
そのまま高校を卒業し、敏生も思い出の一部になりそうになっていた時、嘘みたいな奇跡が本当に起きて、敏生と再会できてしまった。
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