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——〝普通の友達〟……かな?
結乃の頭の中に、そんな願望をはらんだ思考のインクが一滴落とされる。そのインクは徐々に広がって、結乃の思考のすべてを覆いつくしていく。
だって、バレンタインデーの時、敏生は他の誰の物も受け取らなかったのに、結乃のチョコは受け取ってくれた。ホワイトデーでは雪の中を歩いて、結乃の家まで〝お返し〟を届けてくれた。
雨の日には相合傘をして、二人の母校に続く道に咲く紫陽花を観に行った。そして、その時の別れ際には、思いもよらずキスをしてしまった……!
——いや、あれはキスとは言わないよね……。
言うなれば偶然、唇と唇が触れ合っただけ。お互いの意思のもとに行われた行為ではない。
だけど、数年間——。
好きになってからずーっと何年間も遠くから見つめるだけだった存在と、唇が触れ合うほどあんなにも近くにいたなんて……!
あの雨の日のキスを思い出すたび、結乃の思考は激しく浮き沈みを繰り返し、気持ちを持て余して悶絶してしまう。
そして、いつも最後には〝もう一度キスができたなら…〟と、夢を思い描いてしまう。
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