第二章 猫の首に鈴

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 ここまでいうと、声をしぼり私に耳打ちするようにささやいた。 「ここの、村上開新堂も夢の中にでてきたんです。私、ここに来たことないのに。今日きてびっくりしました。あまりにも夢の通りで」  私は目を丸くする。つまり、どういうこと?   タイミングよく注文した品がやってきた。フォンダンショコラとコーヒーのセット。 「夢の中の私は、冬を待ち遠しく思ってるんです。冬がきたら、やって来る人がいるみたいで」  冬とともに訪れる人……。渡り鳥みたいな人だ。その人に会いたいってことなのだろう。夢の中のあいるさんは。 「その人が誰か、夢を見てる私にはわからんくて。毎晩毎晩いったこともない場所が夢に出てきて、朝起きたらせつない気もちになる。こんなおかしな夢みるの、しんどいんです」  そんな状況の中、店で聞いた会いたい人に会えるミサンガを思い出したという。 「おまじないでも、気休めでもいいんです。とにかくこの夢をどうにかしたい。夢の中で会いたい人に会ったら、すっきりするんちゃうかなと」  雲をつかむような話で、ちっとも現実とは思えない。
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