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第一章 猫にまたたび
「ごめんなあ、まこちゃん。ここで糸、買うの今日が最後やわ。かんにんえ」
藤原さんはそういって、シミが浮く手の甲をのばし、テイカップを優雅につまみあげた。
「どうされたんですか急に。あの、何か不都合でもありましたか」
私はレース編みのセンタークロスのかかったテーブルをはさんで座り、膝の上で両手を握りしめる。この藤原さんはレース編みが趣味で、むかしからのお得意さま。この店こだわりの草木染めの糸を気に入り、たくさんの作品をつくってこられた。
店主の祖母とおしゃべりしながら、ショールやドイリー(敷物)などをこのテーブルに座って編んでいる姿を覚えている。
よどみなく口と手が同時に動き、指にひっかけた糸とレース針が複雑に交差していくと、みるみる美しい模様が編みあがっていく。そのさまは、まるで魔法のようだと、子供の私は目をみはったものだ。夏休みのたび、東京から京都へ遊びにきて、店の様子を観察するのが大好きだった。
藤原さんは大物をつくれなくなった代わりに、ちいさく繊細なモチーフをたくさん編んで、ひざ掛けにするといっていた。
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