第二章 猫の首に鈴

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 それでもやつれて必死に懇願するあいるさんを、馬鹿げていると突き放すことはできなかった。  夢の中のあいるさんと、夢を見ているあいるさん。ふたり分のやるせない気持ちが、私の肩に重くのしかかる。  私はあいるさんに、ミサンガの作り方を教える約束をした。  あやちゃん、思い出してくれるだろうか。  あいるさんと別れ、自転車に乗ってリンカネーションへ帰る途中、あやちゃんにミサンガを思い出してもらう方法をずっと考えていた。  とりあえず、葵くんをどうにかしないと。土曜日だったらあやちゃんの旦那さんにあずけられるけれど、お客さんの来店が多い。  平日の方がゆっくりできる。ここはまた、祖父を使うしかない。  ロシアケーキにくわえ、マドレーヌもお買い上げした紙袋が、自転車かごの中でゆれていた。これをわたす時、お願いてみよう。  自転車を土田商店の駐車場にとめ、町家の格子戸をくぐるとしろくんの声が、すばやく飛んで来た。 「どうでした? あいるさん」  閉店まぎわの店内に、お客さんはいない。私はひとつため息をつき、村上開新堂のカフェで聞いた話をしろくんにも伝えた。
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