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―――帰り道。
私はどうやったら部屋の中が見えないかを必死に考えていた。
上の空で会話をしながら、頭をフル回転させていたら、「南ちゃん、聞いてる?」と。
「え?」
「聞こえてなかった?今学期の教養は音楽を選択しない?それなら一緒に受けられそうだから」
にっこり微笑む高田君にドキドキして、あーもう!!!と悶えそう。
「うん、絶対とる!」
大きく首を振って頷き、意地でも一緒の大学に入って良かったな~と幸せを噛み締めていたのも束の間……。
場所――、は私の部屋の前。
高田君には「マンションの下で待っててくれる?」とお願いしたが、「一緒に行くよ、悪いから」と上がってきてしまった。
扉の前で、昨日はここに圭が寝ていたな…と思ったが、そんなことはどうでもいい。というか、それどころじゃない。
「じゃあ…、取ってくるから、ここで待ってて!引越しの荷物がまだ片付いてなくて、部屋ぐちゃぐちゃなの!」
「そんなの気にしなくていいのに…」
よかった…。今度はそう言いながらも、待っていてくれる様子。
これなら、さっと開けて入れば、部屋の中は見えないはず。
………アレ?
さあ、入ろう!と鍵を鍵穴に突っ込んだが………、なぜか回らない。
しかも、逆方向に回すとガチャン、と鍵が閉まった。
「―――っ…」
「鍵閉め忘れたの?」
「カモネ…」
そうだった…。気を取られて閉めなかったよね…。
力なく頷いた私に、高田君は「危ないよ?留守中に誰かが入ってくるかもしれないじゃん。気を付けて」と心配してくれている。
だよね…。
でも…、部屋の中にはその誰かがいるんだけどね…。
再び、鍵を回して鍵を開けて、「ここでいてね」と念を押し、部屋に入って急いで扉を閉めた。
―――瞬間、
「痛っ……ッ…!!!」
玄関の何かに躓いて、地味な痛みが体を襲う。
「南?何やってんの?」
煩わしそうに圭が出てきたのとほぼ同時。
玄関の扉が開いて、
「大丈夫!?南ちゃん!?」
高田君も入ってきてしまった。
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