01

1/1
前へ
/5ページ
次へ

01

『供給電圧安定。最終工程に入ります。』  世話しなく動く数値やメーターを映した幾つもの機材。そこから伸びたケーブルが、開発室の床中を這っていた。時折ケーブルの表面に散る火花が、その電圧の強さを感じさせた。  床を這う全てのケーブルが、開発室中央の椅子へと収束していた。そこには一体のロボットが横たわっていた。まるでリクライニングシートで眠る少女のように。   ★  少女の姿をしたロボットが、跳ねるように背中を反らせた。その全身に電光が走ると静寂が訪れた。  ゆっくりと瞼を開いたロボットは、目覚めたばかりの少女のように、瞳だけを動かし覚醒した。体を起こすと、今度は首を動かし部屋中を眺めた。そして立ち上がり自分の姿を見たロボットは、目的を持って視線を巡らせた。 「……」  ロボットが視線を止めた先に、白髪交じりの男が倒れていた。それはかつて、この施設を建てた男だった。倒れてからどのくらい経つのか、もう息がない事だけは確かだった。 「ハカセ?」  少女の姿をしたロボットは、思考と言うデータをまさぐった。 「博士。博士起きてください」  男の傍らに膝をついたロボットは、やさしく男の肩を揺すって語りかけた。それが意味のない事だとは分かりもせずに。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加