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「もう」  一向に目覚めない男を抱き起そうとしたロボットは、男の手に一冊のノートを見つけた。 「博士。起きなかったら見ちゃいますよー」  手帳を取る仕草をしても男が反応を見せなかったので、ロボットはそのまま手に取った。   ★ 地球を出て一緒に暮らそうと誓い合った彼女は還らぬ人となってしまった 互いのロボット研究の分野で切磋琢磨した仲間であり最愛の君 俺も地球で朽ち果てることにしよう 彼女の遺品から一冊の日誌をみつけた、研究所の資料とは異なる物だ 信じられない、研究とは別に彼女が独自のAIロボットを作っていたなんて 今度隠された場所へ行ってみよう 素晴らしい、彼女が愛情をそそいだロボットは完成していた 普通の少女と話しているようだ 誰にも知られずに暮らさなくては   ★  ロボットが読んでいるのは、この施設を造った博士と呼ぶ男の手記だった。読み進める内に、ロボットの指先で静電気が弾けた。 ☆ もう地球上での生存は難しそうだ 愚かな人類からは愚かな王しか生まれない 他の星に移ろう 彼女が作ったAIは会話も行動も完璧だ 二人の生活にもすっかり慣れた ロボットだと忘れるくらい 今では本当の娘のようだ しかし何かが足りないと感じる この奇妙な違和感はなんだ すべて私が求めることを導き出しているだけ どこか通じあっていない違和感は感情だ 私が心を与えることが出来れば   ★  ロボットの手が震えた。自分の瞳を覗き込み、後ろにさがりながら話す博士の姿が見えたからだ。 「これからは物事を記録ではなく、お前の記憶としてとらえなさい」  データを検索している訳でもないのに、博士の姿や言葉が次々と現れた。ロボットは現象を理解できぬまま、体に熱を帯びるのを感じた。   ★ そろそろ限界のようだ。 アンドロイドの完成までもう少し 死ぬわけにはいかない もう少しだ 心のプログラムは完成した いったい何がたりない 彼女が作ったAIは完璧だ 思考と感情に因果関係はないのか
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