44人が本棚に入れています
本棚に追加
川島に視線を動かした薮田に、川島もバッジを見せた。その間、薮田は一歩も動かなかった。
「このお客さん、覚えていらっしゃいますか? 正午前後に行かれたと思いますが」
薮田は、比嘉の差し出した伝票をじっと見た。そして、すぐに頷いた。
「はい。覚えてます。あの新しいマンションですよね?」
そう答えた瞬間、薮田の口元が少し緩んだ。その表情の変化に気付いた比嘉の眼光が鋭さを増す。少し微笑んだように見えた薮田の表情は直後に真剣なものに変わって、レジの近くに立つ店長の方に何度か視線を向けていた。
「この御手洗梓さんなんですが、薮田さんがピザを届けた後に、亡くなりました」
「え? あ、えっと……死んだ、んですか?」
薮田の動揺は、比嘉の目にも、川島の目にも、その事実を初めて知って驚いていると映った。
「それで、ちょっと確認したいことがあるんですが、これを見て頂けますか? 亡くなった御手洗さんの写真なんですが」
遺体の写真と聞いて、薮田の表情は曇った。当然の反応だ。
「できるだけショックを受けないような形にしています。亡くなっていると知らなければ、そう見えないと思いますから」
最初のコメントを投稿しよう!